録音の打ち合わせや納品の指定書には、「48kHz/24bit」「44.1kHz/16bit」「32bit float」といった数字がほぼ必ず出てきます。けれども、それぞれの数字が音の何を決めていて、なぜその値になったのかまで説明できる人は、制作の現場でも多くありません。「大きいほど高音質」という理解のまま指定すると、ファイルが重くなるだけで、かえって変換の手間や事故を増やすこともあります。
サンプリング周波数(1秒間に音の大きさを測る回数)とビット深度(1回の測定を何段階の目盛りで記録するか)は、デジタル録音の「解像度」を決める二つの軸です。どちらの数字にも、1920年代の通信理論から1970年代のビデオテープ、放送と映像の規格まで、それぞれの来歴があります。
波形の記録の全体像は 波形を読む技術 で、ファイル形式の違いは WAV・FLAC・MP3・AAC の違いと、音源の納品形式の決め方 で扱ったので、この記事では数字そのものの由来と、ハイレゾの聴取実験、制作と発注での選び方に絞ります。
1秒を何回測るか — 標本化定理が決めた「半分」の上限
マイクが拾った音は、空気の圧力の変化を写し取った連続的な電圧です。デジタル録音では、この電圧を一定の間隔で測り(標本化、サンプリング)、測った値を決まった段階の数値に丸めます(量子化)。1秒間に測る回数がサンプリング周波数で、48kHzなら1秒に48,000回です。
何回測れば足りるのかを決めているのが、標本化定理です。周波数の上限が決まっている信号は、その上限の2倍より多い回数で測れば、測った点の列から元の波形を完全に復元できる、という定理です。裏返せば、サンプリング周波数の半分(ナイキスト周波数)より高い成分は、どれだけ丁寧に測っても正しく記録できません。
この考え方には複数の源流があります。米ベル研究所のハリー・ナイキスト(Harry Nyquist)は1928年、米国電気学会の論文誌に「Certain Topics in Telegraph Transmission Theory」を発表し、帯域幅が決まった回線で送れるパルスの数の上限を示しました。これを連続信号の標本化と復元の定理として明快に示したのが、クロード・シャノン(Claude E. Shannon)の論文「Communication in the Presence of Noise」で、1949年1月の米国無線学会(IRE)の論文誌に掲載されました。論文には原稿の受理が1940年と記されており、戦争で公表が遅れた経緯があります。
上限を超えた音は「別の音」に化ける
ナイキスト周波数を超える成分が測定に紛れ込むと、消えるのではなく、低い周波数の偽の音として記録されます。これを折り返し雑音(エイリアシング)と呼びます。映画で走る馬車の車輪が逆回転して見えるのと同じ原理です。
そのため、AD変換器(アナログをデジタルに変える回路)の手前には、ナイキスト周波数より上を落とすローパスフィルタ(低い周波数だけを通すフィルタ)が必ず入ります。ただ、急に切るフィルタほど副作用が出やすいため、現在の変換器の多くは内部でいったん何十倍もの回数で測り、デジタル処理でフィルタをかけてから間引く「オーバーサンプリング」で対処しています。
人間が聞き取れる高さの上限は、一般に20kHz前後とされます。上限を20kHzとするなら、その2倍の40kHzを少し超える値を選び、フィルタが落とし始める余白を確保すればよい、というのがCDの44.1kHzや業務用の48kHzの基本的な考え方です。

44.1kHz はビデオテープから生まれた — CD の数字の由来
44.1kHzという半端に見える数字は、音響の理屈だけでは決まっていません。由来は、1970年代後半に登場したPCMプロセッサー(PCMアダプター)にあります。当時、1時間を超えるデジタル音声を記録できる安価な媒体はビデオテープしかなかったため、音声の数値を白黒の点の並びとしてテレビの映像信号に変換し、家庭用・業務用のビデオデッキで記録する方法が使われました。ソニーの業務用機 PCM-1600 系は、1980年代初めに多くのレコード会社でCDのマスター作りに使われました。
映像信号に載せる以上、サンプリング周波数は映像の走査線の数と画面の書き換え回数に合わせる必要があります。走査線1本に左右のチャンネルの値を3組ずつ載せるとすると、計算は次のようになります。
| 映像方式 | 1フィールドで使う走査線 | フィールド数/秒 | 1本あたりのサンプル | サンプリング周波数 |
|---|---|---|---|---|
| 525本・60フィールド(日本・北米の白黒方式) | 245本 | 60 | 3 | 245 × 60 × 3 = 44,100Hz |
| 625本・50フィールド(欧州など) | 294本 | 50 | 3 | 294 × 50 × 3 = 44,100Hz |
| 525本・59.94フィールド(カラー方式) | 245本 | 約59.94 | 3 | 約44,056Hz |
二つの映像方式のどちらでも同じ値になり、しかも20kHzまでを収めるのに足りる。この条件を満たすのが44.1kHzでした。カラー方式に合わせた約44.056kHzで動く機器もありましたが、CDの規格には44.1kHzが採用されています。
CDの規格は、フィリップスとソニーの共同作業で1980年にまとめられた仕様書(表紙の色から「レッドブック」と呼ばれます)が原点で、2チャンネル・16ビット・44.1kHzのリニアPCMと定められました。この規格は国際電気標準会議(IEC)でも IEC 60908 として国際規格になり、現行は1999年発行の第2版です。
つまり44.1kHzは「耳に最適な値」ではなく、20kHzを収める条件と当時の記録媒体の都合が重なったところで決まった数字です。
48kHz・32kHz・96kHz — 用途ごとに決まった周波数
業務用の音声機器や映像の世界では、48kHzが標準です。米国オーディオ技術学会(AES)の規格 AES5 は、PCM音声の制作・処理・やり取りに使うサンプリング周波数として48kHzを推奨しています。1984年の初版以来、改訂を重ねても、この推奨は変わっていません。
同じ規格の中で、44.1kHzは「特定の民生用製品に直接関係する用途」の周波数として認められています。32kHzは、通信路の容量が限られ、15kHz程度までの帯域で足りる放送・伝送の用途向けです。FM放送の音声帯域がおおむね15kHzまでであることに対応した値です。96kHzは、より広い帯域が必要な用途や、変換器のフィルタを緩やかにしたい用途のために認められています。
48kHzが映像と相性がよい理由は、割り算をしてみるとよく分かります。
- 映画の24コマ/秒なら、1コマあたり 48,000 ÷ 24 = 2,000サンプル
- 欧州のテレビの25コマ/秒なら、1コマあたり1,920サンプル
- 日本・北米のテレビの約29.97コマ/秒では割り切れないが、5コマで8,008サンプルとなり、5コマ周期で揃う
44.1kHzでは、24コマ/秒でも1コマあたり1,837.5サンプルと端数が出ます。映像の編集点と音の切れ目を1サンプル単位で合わせるには、48kHzのほうが扱いやすいのです。動画配信の多くが48kHzを推奨し、CM・ゲーム・映像向けの音の発注で48kHzが指定されることが多いのは、この来歴の延長線上にあります。
ビット深度は「目盛りの細かさ」 — 量子化雑音とダイナミックレンジ
サンプリング周波数が「いつ測るか」を決めるのに対し、ビット深度は「どれだけ細かく測るか」を決めます。16ビットなら2の16乗=65,536段階、24ビットなら約1,678万段階の目盛りで、1回分の音の大きさを記録します。CDの16ビットでは、1サンプルの値は-32,768から32,767までの整数しか取れません。
どれだけ細かい目盛りでも、実際の電圧は目盛りと目盛りの間に来ます。その差を丸めた誤差が、量子化雑音です。目盛りが細かいほど誤差は小さくなり、記録できる最大の音と、雑音に埋もれない最小の音との差、つまりダイナミックレンジが広がります。
理論上、ビット数を N とすると、最大の大きさの正弦波に対する信号と量子化雑音の比は、およそ 6.02 × N + 1.76 デシベル(dB)になります。1ビット増えるごとに約6dB、すなわち振幅で2倍ずつ広がる計算です。
| ビット深度 | 目盛りの段数 | 理論上の信号対雑音比 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 16ビット | 65,536 | 約98dB | CD、配信の標準的な音質 |
| 24ビット | 約1,678万 | 約146dB | 録音、ミックス、マスターの受け渡し |
| 32ビット浮動小数点 | 仮数部24ビット相当+指数 | 実用上は桁あふれしない範囲が極めて広い | DAWの内部処理、一部のレコーダー |
24ビットで録る本当の理由
約146dBという24ビットの理論値に、実際の機材は届いていません。マイクやプリアンプ(マイクの信号を増幅する回路)、AD変換器そのものの雑音があるため、実際の変換器のダイナミックレンジは120dB前後が上限とされます。それでも録音を24ビットで行うのは、最終的な音質というより、録音時の安全余裕(ヘッドルーム)を十分に取れるからです。
16ビットでは小さな音を雑音に埋もれさせないために最大値近くまでレベルを上げる必要があり、突然の大音量で歪む危険が増えます。24ビットなら、ピークを低めに抑えても下の余白は十分に残ります。最終的に16ビットへ落とす工程ではディザ(丸めの誤差を目立たない雑音に変える処理)を使いますが、その中身は マスタリングは何をしているのか で扱いました。
32ビット浮動小数点 — 目盛りの位置ごと動かす記録
16ビットや24ビットは「整数」で値を記録します。目盛りの数が固定されているので、最大値を超えた音は記録できず、波形の頭が平らに切れてしまいます(クリップ)。これに対し32ビット浮動小数点(32bit float)は、数値を「桁の並び」と「その桁をどの位置に置くか」の組で記録します。
コンピューターの数値表現の国際規格 IEEE 754 の単精度形式では、32ビットを符号1ビット、指数8ビット、仮数23ビットに分けます。仮数部の先頭には省略された1ビットがあるため、精度は24ビット相当です。違いは指数部で、目盛りの細かさを保ったまま、物差しそのものを上下に動かせます。そのため、デジタルの最大値(0dBFS)を超えるような値でも、計算の途中で失われません。
DAW(音楽制作ソフト)の多くが内部の計算を浮動小数点で行い、トラックを足し合わせて一時的に最大値を超えても、最後に音量を下げれば歪まずに済むのはこのためです。
32bit float のレコーダーで変わること、変わらないこと
近年は、録音そのものを32bit floatで記録するフィールドレコーダーや録音インターフェースが増えています。米国のレコーダーメーカー Sound Devices は自社の解説で、32bit floatのファイルは0dBFSより770dB上まで表せると説明しています。録音中にレベルが上がりすぎても、あとで音量を下げれば歪みのない波形を取り出せるため、予測できない大音量が入る屋外収録やドキュメンタリーの現場で重宝されています。
ただし、ファイル形式に余裕があっても、手前の機材に余裕があるとは限りません。マイク自体の限界や、プリアンプ・AD変換器のアナログ回路で歪んだ音は、記録形式では救えません。メーカー各社が複数の変換器を組み合わせて広い入力範囲を実現しているのはこのためで、「32bit floatだからレベル設定は不要」とまでは言えません。
受け取り側のソフトや入稿仕様が32bit floatを想定していないこともあるため、納品は24ビットの整数に変換するのが一般的です。

高い数字は聞き分けられるのか — ハイレゾの定義と聴取実験
サンプリング周波数とビット深度を上げた音源は、一般に「ハイレゾ(高解像度音源)」と呼ばれます。日本では、電子情報技術産業協会(JEITA)が2014年3月に呼称の定義を定めました。リニアPCMに換算して、サンプリング周波数と量子化ビット数のいずれかが「CDスペック」を超えるものをハイレゾオーディオとする内容です。当時の報道によれば、ここでの基準は44.1kHz〜48kHz・16ビットで、48kHz・24ビットや96kHz・16ビットは該当し、48kHz・16ビットや32kHz・24ビットは該当しないと示されました。
日本オーディオ協会は2014年6月、機器向けの基準として独自のハイレゾロゴの条件を定めました。マイク・アンプ・スピーカー・ヘッドホンなどアナログ部分の高域の性能が40kHz以上であること、デジタル部分で WAV か FLAC の96kHz・24ビット以上を扱えること、各社の基準による聴感評価を経ていることが条件です。
聞き分けの実験は結論が割れている
では、ハイレゾとCD規格の音を人は聞き分けられるのでしょうか。この問いには、何十年も議論が続いています。
よく引用されるのが、E・ブラッド・マイヤー(E. Brad Meyer)氏とデビッド・モラン(David R. Moran)氏が2007年9月にAESの論文誌に発表した実験です。高解像度の再生信号の途中に、CD規格のAD・DA変換を挟んだ経路と挟まない経路を切り替え、1年以上にわたって録音技術者や学生、愛好家に聞き比べてもらいました。通常から大きめの再生音量では違いは検出されず、無音部分の雑音が聞き取れたのは、音量を通常より大きく上げた場合だけだったと報告されています。一方で、使われた音源の多くが本当の高解像度録音ではなかったという批判もあります。
英ロンドン大学クイーン・メアリー校のジョシュア・リース(Joshua D. Reiss)氏は2016年、AESの論文誌に、過去の聴取実験18件、参加者400人以上、試行1万2,500回以上をまとめたメタ分析(複数の研究結果を統合する分析)を発表しました。その結論は、高解像度の音を聞き分ける能力は小さいものの統計的に有意に認められ、訓練を受けた聴取者ではその差が大きくなるというものです。ただし効果はわずかで、何が違いを生んでいるのかは特定されていません。
聞こえない高域の成分が脳の活動に影響するという「ハイパーソニック・エフェクト」の研究もあります。大橋力氏らは2000年、高域を含む音楽を聴くと脳波のアルファ波が増えたとする結果を米国の神経生理学の論文誌に発表しましたが、追試では異なる結果も出ており、評価は定まっていません。
まとめると、ハイレゾの効果は「ない」とも「誰にでも分かる」とも言い切れません。制作の立場から確実に言えるのは、再生時の差がわずかであっても、制作途中の余裕としての高い数字には意味があるということです。逆に、元の録音が44.1kHz・16ビットなら、数字を上げて書き出しても情報は増えません。Apple が入稿の条件として、44.1kHz・16ビットの音源を高い数字に変換し直して出すことを認めていないのはこのためです。
制作と発注での決め方 — そろえる、変換を減らす、記録する
数字を選ぶ基準は「最も高い値」ではなく、最終的な出口と、途中で誰が手を入れるかです。
| 用途 | 録音・制作の目安 | 納品の目安 |
|---|---|---|
| 配信・CD向けの楽曲 | 44.1kHz または 48kHz・24ビット | 制作時の周波数のまま24ビット |
| 映像・CM・ゲーム | 48kHz・24ビット | 48kHz・24ビット(コマ数と割り切れる) |
| 屋外・ドキュメンタリーの収録 | 48kHz・32bit float | 24ビットに変換して受け渡し |
| ハイレゾ配信・高域を重視する録音 | 96kHz・24ビット | 96kHz・24ビット(容量は48kHzの2倍) |
決め方の原則は三つです。
- 一つのプロジェクトの中で数字をそろえる。周波数が混ざると、気づかないまま再生速度や音程がずれる事故が起こります
- 周波数の変換は最後に1回だけにする。変換のたびに計算誤差とフィルタの影響が入ります
- 数字を指定書とファイル名に書く(例:「曲名_版_48k24b」)。相手が変わっても取り違えが起きません
周波数を上げると、同じサンプル数のバッファでも遅れは短くなる一方、処理の負荷は増えます(音の遅れは何ミリ秒から気になるか)。
録音やミックスの依頼先を探す場合は、職種やジャンルで絞り込める ミュージシャンを探す が使えます。納品形式を条件として明記した業務委託の案件は 仕事を探す に掲載でき、音楽業界の外から初めて音の制作を依頼する企業向けには 企業の方へ で進め方をまとめています。
44.1kHzも48kHzも24ビットも、音質を競う数字というより、媒体と用途に合わせて決められた「受け渡しの約束」です。本記事の規格・仕様は、執筆時点(2026年10月)に各団体と事業者が公開している情報に基づきます。
参考・出典
- Certain Topics in Telegraph Transmission Theory(Harry Nyquist・Transactions of the AIEE 第47巻、1928年)
- Communication in the Presence of Noise(Claude E. Shannon・Proceedings of the IRE 第37巻、1949年)
- IEC 60908:1999 Audio recording - Compact disc digital audio system(国際電気標準会議・1999年)
- AES5: AES recommended practice for professional digital audio - Preferred sampling frequencies(Audio Engineering Society)
- ハイレゾロゴについて(一般社団法人日本オーディオ協会)
- 48kHz/24bitは「ハイレゾ」。JEITAがハイレゾオーディオを定義(AV Watch・2014年3月。JEITA の定義の報道)
- Audibility of a CD-Standard A/D/A Loop Inserted into High-Resolution Audio Playback(E. Brad Meyer, David R. Moran・Journal of the AES 第55巻9号、2007年)
- A Meta-Analysis of High Resolution Audio Perceptual Evaluation(Joshua D. Reiss・Journal of the AES 第64巻6号、2016年)
- Inaudible High-Frequency Sounds Affect Brain Activity: Hypersonic Effect(Tsutomu Oohashi ほか・Journal of Neurophysiology 第83巻6号、2000年)
- 32-Bit Float Files Explained(Sound Devices)
- Apple Digital Masters(Apple・技術資料、2021年4月版。24ビットでの提出とアップサンプリングの禁止)