曲を書いて配信を始めた、ライブで自作曲を演奏するようになった、依頼を受けて CM や映像の曲を書くようになった。作り手の活動がある段階に進むと、必ず出てくるのが「JASRAC に預けたほうがいいのか」という問いです。預ければ放送やカラオケ、配信で使われた分の使用料が集まってくる一方で、自分の曲なのに自由に扱えなくなる場面がある、という話も耳にします。

実際のところ、選択肢は「JASRAC に預けるか、預けないか」の二択ではありません。日本には JASRAC のほかにも音楽の著作権を管理する事業者があり、預け方にも「信託」と「委任」という法律上の違いがあります。さらに JASRAC に預ける場合でも、どの権利・どの使われ方を預けるかを区分ごとに選べます。

この記事では、著作権等管理事業法の定義から始めて、JASRAC の信託契約と NexTone の委任契約の仕組み、手数料と分配、自分の曲を自分で使うときの扱い、依頼制作との関係、そして自己管理を選んだ場合に何を自分で担うことになるかを順に見ていきます。執筆時点(2026年9月)の約款・規程に基づく情報で、個別の契約判断に対する助言ではありません。

「預ける」とは法律上どういうことか — 信託と委任

著作権等管理事業法の二つの型

作り手に代わって利用の許諾を出し、使用料を集めて分配する事業は、著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)で規律されています。2001年10月1日に施行されたこの法律は、それまでの仲介業務法の許可制を登録制に改め、JASRAC 以外の事業者も音楽の著作権管理に参入できるようにしました。登録を受けた事業者の一覧は文化庁が公開しています。

同法第2条第1項は、対象となる「管理委託契約」を二つの型で定義しています。一つは、委託者が受託者に著作権そのものを移転して管理させる信託契約。もう一つは、委託者が受託者に利用の許諾の取次ぎ又は代理をさせる委任契約です。信託では権利の名義が管理事業者に移り、委任では権利は作り手の手元に残ったまま、許諾の窓口だけを任せる形になります。

「使用料を自分で決める」ものは対象外

同じ条文には、もう一つ重要な限定があります。利用の許諾の際に委託者が使用料の額を決定することとされているものは、管理委託契約から除かれています。つまり、管理事業法が想定しているのは、作り手が一件ごとの値付けをせず、事業者が届け出た使用料規程に従って一律に許諾する「一任型」の管理です。

その裏返しとして、管理事業者には義務が課されています。管理委託契約約款と使用料規程を文化庁長官に届け出て公表すること、そして第16条により「正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない」ことです。預けた曲は、原則として誰からの申請でも規程どおりの使用料で許諾される。これが管理事業者に預けることの本質で、利点と制約の両方がここから生まれます。

JASRAC の信託 — 全曲を預け、区分で範囲を選ぶ

将来の曲まで含めて移転する

JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)の管理委託契約約款は、1939年の許可以来改定を重ね、執筆時点の最新は2026年6月25日の変更届出版です。前文で、この約款が管理事業法第2条第1項第1号の信託契約であることを明記しています。

第5条第1項は、委託者が「その有する全ての音楽著作権及び将来取得する全ての音楽著作権」を JASRAC に移転すると定めています。曲を1曲ずつ選んで預けるのではなく、契約した時点の全曲と、これから書く曲がまとめて信託の対象になるのが JASRAC の基本形です。この規定が依頼制作での譲渡とどう関わるかは、著作権の譲渡と27条・28条の特掲で扱っています。

預ける範囲は区分ごとに外せる

一方で、どの権利を預けるかは選べます。第6条第1項は、委託者が日本国内について、別表第1に掲げる支分権又は利用形態の区分の全部又は一部を管理委託範囲から除外できるとしています。別表第1の区分は次のとおりです。

  • 支分権の区分 — ①演奏権等、②録音権等、③出版権等、④貸与権
  • 利用形態の区分 — ⑤上映・BGM 等、⑥社交場・カラオケ演奏等、⑦映画への録音、⑧ビデオグラムへの録音、⑨ゲームに供する目的で行う複製、⑩広告目的で行う複製、⑪放送・有線放送、⑫インタラクティブ配信、⑬業務用通信カラオケ

たとえば「演奏と放送とカラオケは JASRAC に任せ、⑩広告目的の複製と⑦映画への録音は自分で許諾する」という組み合わせが可能です。ただし別表第1の注記により、②録音権等を丸ごと外すと⑦〜⑩も当然に外れます。第6条第2項では、海外についても国や地域ごとに支分権の区分を外せるとされています。

墨絵の俯瞰図で、古い桐の箪笥を真上から見下ろしており、十数個の小さな引き出しのうちいくつかが開いて巻いた楽譜がのぞき、片方の手が一つの引き出しに朱色の紐を結んでいる
JASRAC の信託は全曲を預けるのが基本だが、演奏・録音・広告・配信などの区分ごとに管理から外すことができる。外した区分は作り手が自分で許諾する

変更の時期と契約期間

範囲の選択は、申込みのときに行えるほか、毎年4月1日に変更できます。その場合は前年の12月31日までに書面で通知する必要があります(第7条)。「来月の CM の話が来たから広告だけ外したい」といった急な変更には対応していない、ということです。

契約期間は、承諾の翌営業日から2年を経過した後の最初の3月31日までで(第10条)、満了の3か月前までに更新しない旨を通知しなければ3年ずつ延長されます(第11条)。委託者はいつでも書面で解除でき、その場合は通知の到達から2か月を経過した後の最初の3月31日に終了します(第33条)。やめる自由はあるが、年度単位でしか切り替わらないと理解しておくとよいでしょう。

もう一つの選択肢 — NexTone の委任

権利は手元に残り、窓口を任せる

管理事業法の施行で参入が開かれた音楽の管理事業者の一つが、株式会社 NexTone です。NexTone は自社の著作権管理を「著作権者からの委任にもとづいて、利用者への許諾の取次と使用料の徴収を行う」ものと説明しており、管理事業法でいう委任型にあたります。

権利者は委託する作品の情報を届け出て、届け出た作品について管理が始まります。FAQ では、管理委託契約は最初に一度結べば解約されるまで有効で、作品ごとに契約し直す必要はないと案内されています。

個人が契約するための条件

JASRAC も NexTone も、誰でも無条件に契約できるわけではありません。どちらも過去1年以内に第三者による利用の実績があることを原則としています。ただし、実績の目安は異なります。

実績の種類JASRAC(個人の信託契約)NexTone(個人の管理委託契約)
音楽配信商用配信サイトで1,000回以上のリクエスト累計再生回数1,000回以上
CD・DVD1,000枚以上製造された市販品累計製造数500枚以上
動画投稿サービス(目安の記載なし)累計再生回数5万回以上
テレビ・ラジオ放送での利用1回以上の利用
コンサート入場料のある催物での演奏(500名以下の会場は年3回以上)(目安の記載なし)

JASRAC は申込費用・更新料・年会費・楽曲登録料をいずれも無料としており、個人はオンライン申込みと本人確認で最短20日で契約が完了するとしています。NexTone は事前審査(10営業日程度)を経て本登録に進む流れで、活動の本拠が日本国内にあることなども条件に挙げています。

手数料と分配を数字で比べる

管理手数料は区分ごとに違う

管理事業者は、集めた使用料を分配する際に、区分ごとの料率で管理手数料を差し引きます。JASRAC は約款の別表第3で上限となる届出料率を定め、実際の率(実施料率)を理事会の承認を得て別に公表しています。NexTone も同様に実施料率を公表しています。主な区分を並べると次のとおりです。

使用料の区分JASRAC(2026年6月分配期以降)NexTone(2023年1月30日付)
演奏会(大規模演奏会等を除く)25%20.0%
大規模演奏会等(入場料×定員が5,000万円超)12.5%12.5%
BGM25%20.0%
放送・有線放送8.5%8.5%
インタラクティブ配信9.5%9.5%
オーディオ録音(CD など)6%5.0%
ビデオグラム録音9.8%9.8%
業務用通信カラオケ9%9.0%

配信や放送の料率はほぼ同じで、差が出やすいのは演奏会や BGM です。ただし、手数料率が低くても、そもそも使用料が集まらなければ意味がありません。比べるべきは率そのものより、自分の曲がどこで使われているかです。ライブハウスや商業施設での演奏・BGM は、使用料の徴収網の広さが効いてくる領域でもあります。

広告の「指し値」

JASRAC の約款第16条は、ゲームに供する目的の複製と広告目的の複製について、委託者が使用料の額を指定する「指し値」を認めています。この場合の管理手数料は、実施料率表の注記で、指定額のうち300万円以下の部分に8%、300万円超1,000万円以下の部分に2%、1,000万円超の部分に1%と定められています。一任型が原則の管理事業の中で、広告とゲームは作り手の値付けが残る数少ない領域です。

分配の時期

分配はどちらも年4回です。JASRAC は約款第19条で毎年度6月・9月・12月・3月を分配期と定めています。NexTone は FAQ で、6月・9月・12月・3月の各15日(休日の場合は翌営業日)を支払日として案内しています。

自分の曲を自分で使うとき

JASRAC の「自己利用」の届出

管理事業者に預けると、自分の曲でも使用料の対象になります。権利が移転している(信託)、あるいは許諾の窓口を任せている(委任)以上、自分も利用者の一人になるからです。この点への手当てとして、JASRAC の約款第17条第1項は、委託者が自分の信託作品を自ら利用する場合に、JASRAC に使用料の請求をさせないことができると定めています。対象は、プロモーションのために対価を得ずに使う場合と、理事会が定める一定規模の範囲内で使う場合です。

JASRAC の案内ページによると、「一定規模」の目安は次のとおりです。

  • 演奏会 — 入場料と会場の定員数の積が400万円まで
  • 複製(CD など) — 媒体の種類ごとに2,000枚まで
  • 配信 — 3か月以内、またはリクエスト1,000回のいずれか短いほう

利用は国内に限られ、メンバーズサイトから使用日の前日までに届け出ます。また、共作者や音楽出版社など他の関係権利者が反対している場合は、通常の許諾手続きと使用料の支払いが必要です。共作の多い作り手ほど、この条件が効いてきます。

無料・無報酬の演奏と、NexTone の扱い

営利を目的とせず、聴衆から入場料を取らず、出演者に報酬も支払われない演奏は、著作権法第38条第1項により許諾なく行えます。JASRAC も、この条件を満たすライブであれば自由に作品を使えると案内しています。

一方、NexTone の FAQ は、届出済みの作品を著作権者自身が利用する場合も、著作権者自身が利用者として使用料を支払うことになると説明しています。コンサートやイベントでの演奏は、開催の5日前までに利用申請を行うよう求めています。自作曲のライブ演奏が活動の中心であれば、預け先ごとの自己利用の扱いを先に確認しておくことが欠かせません。

依頼制作をする作り手の注意点

委嘱作品は「事前の承諾」で外せる

CM・映像・ゲームなどの依頼で曲を書く作り手にとって、JASRAC の信託は依頼者との関係にも影響します。信託した作家が書き下ろした曲は、原則として JASRAC の管理作品になり、依頼者が使うときも使用料の対象になりうるからです。

これに対して約款第17条第2項は、第三者から創作の依頼を受けて完成した作品を、依頼者が依頼の目的の範囲内で利用するときは、あらかじめ JASRAC の承諾を得て使用料の請求などをさせないことができると定めています。対象は、広告主の広告、劇場用映画や放送番組のテーマ音楽・背景音楽、ゲーム、演劇、オペラ・ミュージカル・バレエ等の公演、公益性の高い非営利組織の事業、そして社歌などです。

依頼を受ける前に「この仕事は第17条第2項の手続きで依頼者の使用料を止めるのか」「そもそも該当区分を管理から外しているのか」を依頼者と確認しておけば、納品後に想定外の請求が生じる事態を避けられます。校歌・社歌については、第5条第4項で依頼者への譲渡も認められています。報酬の組み立て方は買い取りか印税か、映像での使われ方は映像に音楽を付けるときの権利処理も参考になります。

依頼の窓口では最初に伝える

発注者の側からは、作り手が JASRAC や NexTone に預けているかどうかは見えにくいものです。ポートフォリオや依頼の募集ページで、管理事業者との契約の有無と、依頼制作での対応(区分の除外・委嘱作品の手続き・買い取りの可否)を最初に示しておくと、条件のすり合わせが早くなります。作り手としての見せ方は音楽人材の方へにまとめています。

自己管理を選ぶと、何を自分で担うのか

自由に値付けし、自由に譲渡できる

管理事業者に預けない場合、許諾の判断と使用料の額はすべて作り手自身が決めます。管理事業法の対象外なので、応諾義務もありません。使ってほしくない相手や用途は断れますし、依頼制作では著作権そのものを依頼者に譲渡する契約も、原則として自由に結べます。ライセンスの条件を自分で設計して、クレジット表記を条件に無償で使ってもらうこともできます。

映像・広告・ゲーム向けの書き下ろしが収入の中心で、納品した曲が放送やカラオケで繰り返し使われる見込みが小さい作り手にとっては、自己管理のほうが取引を組み立てやすい場合があります。

墨絵の広い風景で、秋の夕暮れの川べりの小道を、ギターケースを背負った人物が遠くに小さく後ろ姿で歩いており、手に提げた提灯だけが朱色に灯り、対岸にはすすきと小さな瓦屋根の集落が霞んでいる
自己管理では、許諾の判断・値付け・徴収をすべて作り手が担う。自由度が高い一方、放送やカラオケ、店舗の BGM などで使われた分の使用料を集める経路は自分で用意する必要がある

集まらない使用料と、証明の手間

その代わりに、使用料を集める仕組みは自分で用意しなければなりません。放送局やカラオケ事業者、配信サービス、店舗の BGM などの利用者の多くは、管理事業者と包括的な契約を結んで使用料を支払っています。管理事業者に預けていない曲については、作り手が個別に契約しない限り、こうした利用からの使用料が届く経路がありません。

また、許諾の範囲をめぐる行き違いや無断利用が起きたとき、権利者であることの証明や相手との交渉も自分で行います。JASRAC の約款第12条が信託事務として挙げている「利用の許諾」「使用料の請求及び受領」「侵害の防止及び解消」「損害賠償金の請求」は、裏返せば自己管理の作り手が一人で担う仕事の一覧でもあります。

活動の形から逆算する — 判断の順番

ここまでの内容を、判断の順番として並べ直します。

  1. 自分の曲がどこで使われているかを書き出す — ライブ、配信、放送、カラオケ、店舗 BGM、依頼先の広告・映像・ゲーム。使用料が生まれる場所が、預ける価値の大きさを決めます
  2. 契約の条件を満たすかを確認する — 過去1年以内の第三者による利用実績。JASRAC と NexTone で目安が違います
  3. 信託か委任かを選ぶ — 全曲の権利を移すか、権利を手元に残して窓口を任せるか。手数料率は演奏・BGM で差があり、配信・放送はほぼ同じです
  4. 預ける区分を決める — JASRAC なら別表第1の区分ごとに外せます。広告・映像を自分で許諾したいなら⑦〜⑩の扱いを検討し、変更は年1回(前年12月末までの通知)と覚えておきます
  5. 自分で使う場面の手続きを確かめる — 自己利用の届出の規模、共作者の意向、預け先ごとの違い
  6. 依頼制作の運用を決めておく — 委嘱作品の事前承諾、譲渡の可否、依頼者への説明の仕方

どの選択にも利点と引き換えの制約があり、「預けるほうが得」「自分で持つほうが自由」と一概には言えません。また、管理事業者との契約は年度単位で見直せるので、活動の中心が変わったときに選び直すこともできます。

依頼制作の実績を積みたい作り手は仕事を探すで業務委託の案件を探すことができ、発注者はミュージシャンを探すから作り手のポートフォリオを見ることができます。どちらの立場でも、最初のやりとりで「管理事業者との関係」を確かめることが、あとの行き違いを防ぐいちばんの近道です。

参考・出典