会社の紹介動画に好きな曲を流したい、商品の告知動画を SNS に出したい、展示会のブースで流す映像に BGM を付けたい。映像に音楽を付ける場面は、映画や CM の制作会社だけでなく、どの企業にも日常的に生まれています。そのたびに出てくるのが「この曲を使ってよいのか」「誰に何を頼めばよいのか」という問いです。

英語圏では、映像に音楽を合わせて使う許諾を「シンクロ(synchronization)ライセンス」と呼びます。日本の実務でも「シンクロ」「映像への録音」という言い方をしますが、著作権法に「シンクロ権」という名前の権利はありません。映像に音楽を付ける行為は、法律の上では複製(録音・録画)の一種として扱われ、しかも一つの音源に対して権利を持つ人が少なくとも3種類いるため、手続きが見えにくくなっています。

この記事では、映像に音楽を付ける行為が法律上どう位置づけられるか、誰の許諾が必要か、JASRAC などの管理団体の区分と YouTube の包括契約がどこまでをカバーするか、許諾が要らない場面はどこか、そして書き下ろしを依頼する場合に何を決めておくかを順に見ていきます。執筆時点(2026年9月)の情報で、個別案件の法的助言ではありません。

映像に音楽を付ける行為は、法律上どう扱われるか

「録音」と「録画」は複製の一種

著作権法第2条第1項は、録音を「音を物に固定し、又はその固定物を増製すること」、録画を「影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製すること」と定義しています。同じ項の第15号は、複製を「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」としています。

映像の編集ソフトで楽曲のファイルをタイムラインに置き、動画ファイルとして書き出す。この作業は、楽曲を映像と一緒に「物に固定」する行為にあたり、著作権の中の複製権(第21条)が働く場面になります。できあがった動画をインターネットで配信すれば公衆送信権(第23条)が、ディスクにして配れば頒布に関わる権利が、さらに重なります。

つまり、シンクロの許諾とは法律上は「映像と一緒に複製すること」の許諾であり、配信や上映の許諾とは別に考える必要があります。管理団体の区分もこの考え方に沿って作られています。

映画を作っても、音楽の権利は映画に吸収されない

映像作品そのものも著作物で、著作権法は「映画の著作物」として特別な扱いをしています。第2条第3項により、劇場用の映画に限らず、映画と似た視聴覚的効果を持ち物に固定された表現、たとえば動画ファイルも映画の著作物に含まれるとされています。

ここで押さえておきたいのが第16条です。映画の著作物の著作者は、制作・監督・撮影などで全体の形成に創作的に寄与した者とされる一方、条文は「その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き」と明記しています。映像に使われた音楽は、映画の一部になっても音楽の著作物として独立して権利が残るということです。

このため、映像を作った会社が映像の権利を持っていても、中の音楽を別の用途に使い回せるとは限りません。映像の二次利用(テレビ放送の後に配信する、国内向けを海外で流す)のたびに、音楽の許諾範囲が足りているかを確かめる必要が出てきます。

1曲の音源には3種類の権利者がいる

既存の曲を「音源ごと」映像に使う場合、関わる権利は大きく三つに分かれます。

木版画調の断面図で、三階建ての木造の建物を縦に切った内部が見えており、上の階では机に五線紙と筆記具が広がり、中の階では三人の奏者が後ろ姿で楽器を構え、下の階では円盤に溝を刻む機械が回っている
一つの音源の中には、曲を書いた人の著作権、演奏した人の実演家の権利、録音を作った人のレコード製作者の権利が重なっている。映像に使うときは、それぞれの持ち主に許諾を得る
権利の種類持ち主の例映像に使うときに働く主な権利根拠
著作権(詞・曲)作詞者・作曲者、音楽出版社、管理団体複製権、公衆送信権など第21条・第23条
レコード製作者の権利(原盤権)レコード会社、原盤制作会社、自主制作のアーティスト複製権、送信可能化権第96条・第96条の2
実演家の権利歌手、演奏者(多くは契約で原盤側に集約)録音権・録画権、送信可能化権第91条・第92条の2

詞と曲の著作権

一つ目は、歌詞とメロディに対する著作権です。作詞者・作曲者が持ち、多くの場合は音楽出版社に譲渡されたうえで、JASRAC や NexTone といった著作権管理事業者に管理が委託されています。管理事業者に委託されている曲は、管理事業者が定めた手続きと使用料で使えるのが原則です。

原盤権と実演家の権利

二つ目は、録音された音そのものに対する権利です。著作権法は、最初に音を固定した者を「レコード製作者」とし、第96条で「レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有する」と定めています。業界では、このマスター音源の権利を「原盤権」と呼ぶことが多く、レコード会社や原盤を制作した事務所が持っているのが一般的です。

三つ目は、歌ったり演奏したりした人の権利です。第91条第1項は「実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する」と定めています。実際の商業録音では、実演家の権利の扱いは録音の時点で原盤を作る側との契約でまとめられていることが多く、利用者の窓口はレコード会社になるのが通例です。

JASRAC は、映画・映像ソフト・広告のどの案内ページでも、市販の CD やダウンロードした音源を使う場合は、著作権とは別に「著作隣接権(音源製作者やアーティストの権利)」の許諾が必要で、レコード会社などに直接問い合わせるよう案内しています。管理団体の手続きを済ませても、それは詞と曲の許諾にすぎないという点が、映像への音楽利用で最もつまずきやすいところです。

詞と曲の許諾 — JASRAC の区分と「指し値」

映像への録音は、用途ごとに区分が分かれている

JASRAC の管理委託契約約款は、第6条で、作家や音楽出版社が一部の権利を管理委託の範囲から外せることを定めています。その区分を並べたのが約款の別表第1で、映像に関係するものとして次の区分があります。

  • 映画への録音 — 映画館などで公に上映することを目的として、映画フィルム等に連続した影像とともに著作物を固定し、増製・頒布すること
  • ビデオグラムへの録音 — ビデオディスクなどの記録媒体に連続した影像とともに著作物を固定し、増製・頒布すること(映画・ゲーム・広告・放送に該当するものを除く)
  • ゲームに供する目的で行う複製
  • 広告目的で行う複製 — 広告に利用することを目的として著作物を複製し、頒布すること

同じ曲でも、この区分のどれかだけが JASRAC の管理から外されていることがあります。たとえば演奏やカラオケは JASRAC が管理しているのに、広告目的の複製は作家本人や音楽出版社が自分で許諾している、という組み合わせです。JASRAC の作品データベース「J-WID」では、利用形態ごとの管理状況を確認できるとされています。映像に使う前に、使い方に合った区分の管理状況を見るのが最初の作業です。

広告は「指し値」、配信用の動画は1分単位

区分によって使用料の決まり方も変わります。JASRAC の広告利用の案内では、広告目的複製の使用料は「著作者または音楽出版社が指定する金額(指し値)」とされ、利用の可否と使用料額を含めた条件を事前に権利者に確認するよう求めています。CM やプロモーション動画で有名曲を使うと費用が大きく読めないのは、金額が表で決まらず、権利者の判断で決まるからです。

一方、企業がインターネット配信用の動画に JASRAC 管理曲を収録する場合は、配信の手続きより前に「ビデオグラム録音」の手続きが必要とされています。JASRAC の案内ページでは、国内作品は収録時間に応じた1分単位の使用料で計算し、外国作品は音楽出版社が設定する指し値になるとされ、オンライン窓口「J-RAPP」から1コンテンツごとに申し込む流れが示されています。

また、同じ案内では、曲を編曲したり訳詞を付けたりする場合は作詞者・作曲者の意向確認が必要だとしています。映像の尺に合わせて曲を大きく作り替えるときは、管理団体の手続きだけでは済まないということです。

原盤と実演 — 市販の音源を使うときの壁

レコード会社の許諾は「個別の交渉」

原盤権には、JASRAC のような横断的な使用料規程がありません。市販音源を映像に使うには、原則としてその音源のレコード会社や原盤の権利者に個別に連絡し、用途・期間・地域・尺を伝えて条件を交渉することになります。広告での利用は特に、アーティストのイメージに関わるため断られることも珍しくないとされます。

詞と曲の許諾は下りたのに原盤の許諾が下りない、という場面では、同じ曲を別の演奏者で新たに録音し直す(カバー録音を作る)方法が取られることがあります。この場合、原盤は自分たちで作るので原盤権の交渉は不要になり、残るのは詞と曲の許諾と、新たに演奏する人との契約です。

映画に一度録った演奏は、その後の扱いが違う

実演家の権利には、映像ならではの規定があります。第91条第2項は、実演家の許諾を得て「映画の著作物において録音され、又は録画された実演」については、音だけの録音物に録音する場合を除き、録音権・録画権が働かないと定めています。第92条の2第2項も、許諾を得て録画された実演などには送信可能化権が及ばないとしています。

映画に出演や演奏を許諾した時点で、その映像のその後の利用に実演家が改めて権利を主張する場面は限られる、という仕組みです。「ワンチャンス主義」と呼ばれることがあります。裏返すと、演奏者に映像用の録音を依頼するときは、最初の契約でその後の使い道と報酬を決めておかないと、後から条件を足す機会がほぼないということになります。演奏者側にとっては、依頼の時点で用途を確認しておくべき理由になります。

クラシック音楽は「曲」と「録音」で保護期間が違う

著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年です(第51条第2項)。バッハやベートーヴェンの作品のように保護期間が終わった曲は、詞と曲の許諾が不要になります。

しかし、その曲を録音した音源は別です。第101条により、レコード製作者の権利は発行の翌年から70年、実演家の権利は実演の翌年から70年存続します。作曲者が数百年前の人でも、数年前に録音された演奏には原盤権と実演家の権利が生きているため、市販のクラシック音源をそのまま映像に使うには、やはりレコード会社の許諾が要ります。

YouTube や SNS の包括契約がカバーする範囲

詞と曲はサービス側が許諾を受けている

YouTube など多くの動画共有サービスは、JASRAC や NexTone と包括的な利用許諾契約を結んでいます。JASRAC は契約を結んでいるサービスの一覧を公開しており、これらのサービスでは、一般の利用者が JASRAC 管理曲を使った動画を個別の申請なしでアップロードできると案内しています。NexTone も、利用契約のある動画配信サービスでは運営者が利用曲の報告と使用料の支払いを行うため、投稿者の手続きは不要だとしています。

JASRAC によると、YouTube のシステムが管理曲を検出して投稿者に届く「著作権の申し立て」の通知は、契約のあるサービスでは権利侵害の主張ではなく、動画の削除を求めるものでもないとされています。

それでも手続きが必要になる三つの場面

包括契約でカバーされるのは、あくまで詞と曲の著作権です。次の場面では、別の手続きや許諾が必要になります。

  1. 市販音源を使う — 包括契約は原盤権と実演家の権利を含みません。CD やダウンロード音源、カラオケ音源を流す場合は、レコード会社などの許諾が別に必要です
  2. 広告目的で使う — JASRAC の案内では、特定の企業・団体や商品、サービスを宣伝する動画は、UGC サービスへの投稿であっても「広告目的複製」の手続きと使用料が必要になるとされています(ライブ配信を除く)
  3. 法人が外国作品を使う — 個人以外の法人・団体が外国作品を含む動画をアップロードする場合は、「ビデオグラム録音」の手続きが必要とされています(ライブ配信を除く)

企業アカウントでの投稿は、2の広告目的に当たるかどうかの判断が必要になる場合が多く、個人の投稿と同じ感覚では扱えません。SNS の短尺動画で使える楽曲ライブラリも、サービスごとに商用アカウントでの利用範囲を別に定めていることがあるため、各サービスの規約を確認する必要があります。

許諾がいらない場面と、許諾があっても気をつけること

写り込みの例外

屋外で撮影していたら、店先のスピーカーから流れる曲が入った。こうした「写り込み」は、第30条の2で一定の範囲で許諾なく利用できるとされています。2020年の改正(2020年10月1日施行)で対象が広がり、写真の撮影・録音・録画に限られていたものが、生配信やスクリーンショットなど複製や伝達の行為全般に拡大されました。

ただし要件があります。撮影の対象に付随して入り込んだ著作物で、作品全体の中で軽微な構成部分にとどまること、そして利益を得る目的の有無や分離の困難さなどに照らして「正当な範囲内」であることです。改正の際も、付随性・軽微性の要件は維持されたうえで、権利者の市場を害するような濫用を防ぐために「正当な範囲内」の要件が加えられたと文化庁は説明しています。編集で意図的に BGM として付けた曲は、撮影対象に付随して入り込んだものとはいえず、この例外で説明するのは難しいと考えるのが自然です。

木版画調の広い構図で、雨上がりの夕方の古い商店街を描いた風景。手前の路地で三脚に据えたカメラと撮影する人の後ろ姿が遠くに小さく見え、通りの奥にはラッパ型のスピーカーを軒先に掲げたレコード店がある
店先から流れる曲が撮影に入り込む「写り込み」は、付随性・軽微性などの要件を満たせば許諾なく利用できる。一方、編集で後から付けた BGM はこの例外で説明しにくい

著作者人格権 — 曲を切り詰めるとき

許諾を得て使う場合でも、映像の尺に合わせて曲を途中で切る、サビだけをつなぐ、テンポを変えるといった加工には注意が必要です。第20条第1項は、著作者が著作物の「同一性を保持する権利」を持ち、「その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」と定めています(同一性保持権)。どの程度の編集がこの権利に触れるかは個別の判断になり、見解が分かれる領域です。

実務では、許諾を求める段階で「何秒をどの場面で使うか」「フェードアウトや繰り返しを行うか」を具体的に伝え、編集の範囲まで含めて了承を得ておく方法が取られています。

書き下ろしを依頼するなら — 権利の置き場所を先に決める

既存曲の権利処理は、相手が複数いて、金額も読みにくい手続きです。映像のために曲を新しく作ってもらう「書き下ろし」は、最初の契約で権利の置き場所を決められる点で、利用範囲を自分たちで設計しやすい方法です。依頼の進め方は企業の方へにまとめています。

書き下ろしの場合でも、次の点は契約で決めておく必要があります。

  • 利用の範囲 — 媒体(Web 動画・テレビ・劇場・店頭)、期間、地域、尺違いの版(15秒・30秒・本編)の扱い
  • 詞と曲の著作権 — 作り手に残して利用を許諾するのか、譲渡を受けるのか。譲渡の場合、編曲など作り替えの権利は第27条・第28条を特に書かないと作り手に残ると推定されます(詳しくは「著作権を譲渡する」だけでは足りない — 27条・28条の特掲)
  • 原盤権の帰属 — 録音した音源そのものを誰が持つのか。制作費を払った側が持つのか、作り手が持って利用を許諾するのかで、後の使い回しの自由度が変わります
  • 演奏者との契約 — 作曲者とは別に歌い手や演奏者を起用する場合、前述のとおり映像に録った実演は後から条件を足しにくいため、最初に用途と報酬を決めておきます
  • 管理団体との関係 — 作り手が JASRAC などに作品を信託している場合、書き下ろした曲も原則として管理の対象になり、広告目的の複製などに使用料がかかることがあります。管理委託の範囲がどうなっているかを依頼前に確認します

報酬を一括で払うか使用実績に応じて払うかの考え方は買い取りか印税か — 作曲・歌・演奏の報酬の決め方、契約全体で決める項目は音楽の業務委託契約で必ず決める9項目で扱っています。作曲家や演奏者の過去の制作実績はミュージシャンを探すから職種ごとに見ることができ、条件を示して募集したい場合は仕事を探すに業務委託の依頼を掲載できます。

権利処理は「誰の、どの権利を、どの用途で」の三点で整理する

映像に音楽を付けるときの権利処理を一枚にまとめると、次の順番になります。

  1. 使う音を決める — 既存曲の市販音源か、既存曲を新しく録音するか、書き下ろしか、音源素材サービスの音源か
  2. 詞と曲の管理状況を調べる — J-WID などで、映画・ビデオグラム・広告などの区分ごとの管理者を確認する。管理外なら作家や音楽出版社に直接あたる
  3. 用途に合った手続きを選ぶ — 広告なら指し値の事前確認、配信用動画ならビデオグラム録音、UGC サービスへの投稿なら包括契約の範囲かどうか
  4. 原盤と実演の許諾を取る — 市販音源を使うならレコード会社と個別に交渉する。取れなければ新たな録音を検討する
  5. 編集の範囲を伝えて了承を得る — 尺・切り方・繰り返しを具体的に伝える
  6. 二次利用に備えて記録を残す — 許諾の範囲・期間・金額を映像ごとに残しておき、放送から配信へ、国内から海外へと使い道が広がるときに見返せるようにする

音源素材サービス(ロイヤリティフリー音源と呼ばれるもの)も、JASRAC は各サイトの規約の確認を求めています。「フリー」は多くの場合「使用のたびに使用料がかからない」という意味で、使える媒体や広告利用の可否、クレジット表記の要否はサービスごとに異なります。

映像に流れる数十秒の音の後ろには、曲を書いた人、演奏した人、録音を作った人がいます。権利処理とは、その一人ひとりに「どの用途で使うか」を伝えて了承を得る作業です。誰の、どの権利を、どの用途で。この三点を表にできれば、手続きの抜け漏れは大きく減らせます。

参考・出典