音楽の制作を外部に依頼するとき、契約書に「本楽曲の著作権は乙から甲に譲渡する」と一行入れておけば、あとは自由に使えると考える人は少なくありません。CM の15秒版と30秒版を作る、ゲームの BGM をループ用に組み替える、社歌を合唱用に編曲し直す。どれも発注した側にとっては「自分のものになった曲の使い道」の話に見えます。

ところが日本の著作権法には、この一行だけでは移らない権利があると読める規定があります。第61条第2項です。著作権を譲渡する契約でも、第27条(翻訳・編曲・変形・翻案の権利)と第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)が「特掲」されていなければ、これらは譲渡した側に残っていると推定されます。 特掲とは、その権利を特に名指しして書くことを指します。

音楽の仕事は、編曲・尺の調整・歌詞の差し替えといった「作り替え」と切り離せません。だからこそ、この二つの条文が契約書に書かれているかどうかで、後から動かせる範囲が変わります。この記事では、条文の意味、裁判所が「特掲」をどう解釈してきたか、音楽業界の標準的な約款での扱い、契約書の書き方を順に見ていきます。執筆時点(2026年9月)の情報で、個別案件の法的助言ではありません。

「著作権を譲渡する」と書いても残る権利がある

条文が定めていること

著作権法第61条は二つの項からなる短い条文です。第1項は「著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる」と定め、著作権(財産権としての著作権)が売買や贈与の対象になることを明らかにしています。複製権だけ、演奏権だけといった支分権ごとの譲渡、期間や地域を限った譲渡もできるとされています。

問題は第2項です。条文は次のとおりです。

著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

つまり「著作権を譲渡する」とだけ書いた契約では、複製・演奏・公衆送信などの権利は移っても、作品を作り替える権利(第27条)と、作り替えた作品の利用に口を出せる権利(第28条)は作り手の手元に残っていると扱われる出発点になります。

なぜこういう規定があるのか

この規定の趣旨について、後で取り上げる大阪高等裁判所の決定(2011年)は、著作権の譲渡契約があったとき直ちに著作権全部の譲渡を意味すると解すると、譲渡する側の保護に欠けるおそれがあるため、翻案権などを譲渡する場合には特に掲げて明確な契約を結ぶことを求めたものだ、と説明しています。

作品を複製して売る権利を手放すことと、作品を別の形に作り替えることまで他人に委ねることとでは、作り手にとっての重みが違います。契約の時点では想定していなかった改変や展開まで、包括的な一行で失わせないようにする。第61条第2項は、そのための「念押し」を契約書に求める規定だと理解できます。

一方で、この規定は発注する側にとっては落とし穴になります。お金を払って著作権を譲り受けたつもりでも、編曲版や別バージョンを作るときに、改めて作り手の了解が要るかもしれないからです。

第27条と第28条は、音楽では何を指すのか

第27条 — 作り替える権利

第27条は「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」と定めています。文化庁の『著作権テキスト』は、これを著作物を創作的に「加工」して二次的著作物(原作をもとに新たな創作を加えてできた作品)を創作することに関する権利だと説明しています。

条文に「編曲」という言葉がそのまま入っていることからも分かるとおり、音楽はこの権利と縁の深い分野です。音楽の現場に置き換えると、たとえば次のような作業が第27条の射程に入りえます。

  • 原曲をピアノ独奏用・吹奏楽用・合唱用などに編曲する
  • 歌詞を別の言語に翻訳して歌詞をつける
  • メロディーや構成に手を加えて別バージョンを作る(創作性のある改変の場合)

ただし、何が「編曲」や「翻案」に当たるかは、原曲の本質的な特徴を保ったまま新たな創作性が加わっているかどうかで個別に判断されます。キーを変えただけ、フェードアウトの位置を変えただけといった機械的な変更は、創作性がないとして編曲に当たらないと考えられることが多い一方、尺を大きく組み替えれば判断が分かれえます。ここを一律に線引きすることはできません。

第28条 — 作り替えた作品の利用に及ぶ権利

第28条は「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する」と定めています。

たとえば A さんが作曲した曲を、B さんが A さんの了解を得て吹奏楽用に編曲したとします。この吹奏楽版を C さんが録音して配信するとき、C さんは編曲者 B さんの了解を得るだけでは足りず、原曲の作曲者 A さんの了解も要る、というのが第28条の働きです。編曲版が生まれた後も、原曲の作者の権利は編曲版の利用にまで及び続けます。

最高裁判所は2001年10月25日の判決(いわゆるキャンディ・キャンディ事件)で、原作つきの連載漫画について、二次的著作物の利用に関しては原著作者も二次的著作物の著作者と同一の種類の権利を持ち、両者の権利が併存するため、二次的著作物の著作者の権利も両者の合意によらなければ行使できないと述べています。漫画の事案ですが、第28条の効き方を示した判断として音楽にもそのまま当てはまる考え方です。

切り絵の紙の舞台に、同じ広場で吹奏楽団・和太鼓の一団・弦楽四重奏がそれぞれ小さな台の上で演奏している様子を真上から見下ろした情景
一つの曲から、吹奏楽版・和太鼓版・弦楽版が生まれうる。作り替える権利が第27条、作り替えた版を使うときにも原曲の作者が関わるのが第28条

二つがそろって初めて「自由に作り替えて使える」

発注する側から見ると、第27条と第28条は片方だけでは足りません。第27条が移っていれば自社で編曲版を作ることはできますが、第28条が作り手に残っていれば、その編曲版を複製・配信するときに原曲の作者の権利が及びます。逆に第28条だけを譲り受けても、そもそも編曲する権利がなければ編曲版を作れません。

「作り替えて、作り替えたものを使う」までを一つの契約で完結させたいなら、二つの条文を両方とも名指しする必要がある。 これが「27条・28条の特掲」とセットで語られる理由です。

特掲がないとどうなるか — 「推定」の意味と裁判例

「みなす」ではなく「推定する」

第61条第2項は、特掲がなければ権利が譲渡した側に「留保されたものと推定する」と定めています。法律で「推定する」とは、反対の事実が証明されれば覆る扱いを指します。証明を許さず確定させる「みなす」とは違います。

したがって、特掲がないからといって、27条・28条の権利が必ず作り手に残るわけではありません。契約書の他の条項や、契約に至った経緯から「当事者はこれらの権利も移すつもりだった」と立証できれば、推定は覆ります。ただし、その立証の負担を負うのは、権利が移ったと主張する側、つまり多くの場合は発注した側です。

「一切の権利」では特掲にならない

では、契約書にどこまで書けば「特掲」になるのでしょうか。滋賀県彦根市のキャラクター「ひこにゃん」をめぐる大阪高等裁判所の2011年3月31日の決定(平成23年(ラ)第56号)が、この点を正面から述べています。

この事案では、彦根城築城400年祭の実行委員会が公募したキャラクターについて、契約書と仕様書に「キャラクターに関する著作権等一切の権利は委員会に帰属する」という趣旨の定めがありました。決定は、第61条第2項の趣旨からすれば、特掲されたというためには契約書に「著作権等一切の権利を譲渡する」というような包括的な記載をするだけでは足りず、第27条や第28条の権利を具体的に挙げて、譲渡の対象になっていることを明記する必要があると判断し、この契約には特掲がないとしました。

それでも推定が覆った理由

ただし同じ決定は、推定を覆す事情があったとも認めています。仕様書には、着ぐるみ等を作る場合もあるので立体的な使用も考慮すること、採用されたキャラクターは委員会や委員会が許可した団体がホームページや出版物、PR 用ツール等に自由に使用することが明記されていました。こうした記載や、キャラクターが祭りの行事や広報に広く使われる前提で採用された経緯を総合して、イラストから立体物を作る限度で翻案権も委員会に譲渡されたと認めたのです。

この決定から読み取れることは二つあります。一つは、「一切の権利」のような包括的な文言は特掲として扱われないおそれが高いこと。もう一つは、特掲がなくても、契約書や仕様書に予定された使い方が具体的に書かれていれば、その範囲で推定が覆る余地があることです。

ただし推定が覆ったのは「立体物を作る限度」であり、あらゆる作り替えではありません。音楽に置き換えれば、仕様書に「ロング版・ショート版の制作を予定」と書いてあっても、それが合唱編曲や他言語の歌詞まで含むとは限らない、ということになります。紛争になってから推定を覆そうとするより、最初から条文を名指ししておく方が、双方にとって負担が小さいのは明らかです。

音楽業界の約款は27条と28条をどう分けているか

JASRAC の管理委託契約約款

音楽の著作権では、作り手が個人で権利を持ち続けるだけでなく、著作権等管理事業者や音楽出版社に権利を移す場面が日常的にあります。最大手の日本音楽著作権協会(JASRAC)の管理委託契約約款(2026年6月25日変更届出の版)は、この問題に対して興味深い書き方をしています。

約款の第5条第1項は、委託者が「その有する全ての音楽著作権及び将来取得する全ての音楽著作権」を JASRAC に移転し、信託著作権とすると定めています。続く第2項は、移転する音楽著作権には「著作権法第28条に規定する権利を含むものとする」と明記しています。

一方で、第27条には触れていません。JASRAC は録音・演奏・配信などの利用許諾と使用料の徴収・分配を担う団体で、曲をどう編曲するかを決める立場にはありません。そのため、編曲などの作り替えを許すかどうかは、引き続き作家や音楽出版社の判断に残る設計になっていると読めます。第28条だけを特掲するのは、編曲版が録音・配信されるときの使用料を管理するためだと考えられます。

約款から学べること

この書き分けは、第61条第2項の仕組みをそのまま使った例です。「移したい権利は名指しし、移さない権利は書かない」。管理団体の約款ですら、第28条を明記しなければ移らない前提で作られています。個別の業務委託契約で、同じ配慮をしなくてよい理由はありません。

同じ第5条には、もう一つ音楽の発注者に関係の深い規定があります。第4項は、作詞者・作曲者である委託者が、依頼によって創作する校歌または社歌については、あらかじめ JASRAC の承諾を得て、その音楽著作権の全部または一部を依頼者に譲渡できると定めています。

JASRAC に信託している作家は、原則として将来作る曲の著作権も JASRAC に移す約束をしているため、発注者に直接譲渡することはできません。校歌・社歌はその例外として道が用意されている、ということです。作家が管理事業者に権利を預けているかどうかは、譲渡の契約を結べるかどうか自体に関わるので、依頼の前に確認が必要です。管理事業者との関係については買い取りか印税か — 作曲・歌・演奏の報酬の決め方でも整理しています。

切り絵の紙を重ねて作った、紅葉した木々に囲まれた丘の上の校舎と鐘楼を、夕暮れの引きの構図で描いた風景
校歌や社歌は、長く歌い継がれるあいだに合唱版や吹奏楽版へ作り替えられることが多い。依頼の時点で、作り替えの権利をどちらが持つかを決めておきたい題材だ

契約書にどう書くか — 条文例と一緒に決めること

基本の書き方

文化庁の『著作権テキスト』(令和7年度版)は、第27条・第28条の権利を含めて譲渡を受ける場合、契約書に「すべての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を譲渡する」と記載しておく必要があると説明しています。業務委託契約の条項にすると、たとえば次のような形になります。

乙は、本成果物に係る著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む。)を、甲に譲渡する。

ポイントは、条文番号を括弧書きで具体的に挙げることです。「一切の権利」「すべての権利」といった包括表現を重ねても、大阪高裁の決定が示したとおり特掲にはならないおそれがあります。

一緒に決めておく項目

特掲の一文を入れれば終わりではありません。27条・28条の譲渡とあわせて、次の項目を決めておくと後の行き違いが減ります。

項目決める内容決めないと起きやすいこと
譲渡の時期納品時か、代金の支払完了時か未払いのまま権利だけ移ったかどうかで争いになる
対価27条・28条を含む譲渡に見合う金額か編曲・別版の展開分が対価に反映されない
著作者人格権同一性保持権などを行使しない旨の特約を置くか、範囲を限るか譲渡しても作り手の人格権は残り、改変に異議を述べられる
予定する作り替えロング版・ショート版、ループ、合唱編曲など推定を覆す材料がなく、範囲の解釈が割れる
クレジット作曲者名の表示の有無と表記氏名表示権をめぐる行き違い
管理事業者との関係JASRAC・NexTone 等への委託の有無そもそも作家が単独で譲渡できない

著作者人格権は譲渡できない

表の三つめは特に重要です。著作権法第59条は、著作者人格権が著作者の一身に専属し、譲渡することができないと定めています。27条・28条まで含めて著作権を譲り受けても、作品の同一性を保つ権利(同一性保持権・第20条)や名前を表示する権利(氏名表示権・第19条)は作り手に残ります。

そのため実務では「乙は甲に対し、著作者人格権を行使しない」といった不行使特約を置く例が見られます。文化庁のテキストも、こうした特約がある場合、著作者は依頼者が作品を改変・修正したり氏名を表示しなかったりしても異議を述べられないという不利益が生じるため注意が必要だと指摘しています。無条件の不行使にするか、「本契約で予定する編集の範囲に限る」と絞るかは、交渉で決める事項です。契約全体で決める項目は音楽の業務委託契約で必ず決める9項目で扱っています。

登録という選択肢

譲渡そのものは当事者の合意で成立しますが、著作権法第77条は、著作権の移転を登録しなければ第三者に対抗できないと定めています。同じ曲の著作権が二重に譲渡されたような場面では、登録の有無が優劣を決めます。文化庁への登録は申請の手間と登録免許税がかかるため、すべての発注で必要なわけではありませんが、長く事業の中心に据える曲(社歌・番組テーマ・看板商品の CM ソングなど)では検討に値します。

発注の段取りや依頼先の探し方は企業の方へにまとめています。

受注する側から見た特掲 — 何を手放すのかを知る

特掲された契約書を受け取ったら

ここまでは発注者の目線で書いてきましたが、第61条第2項はもともと作り手を守るための規定です。受注する側にとって、契約書に「第27条及び第28条に規定する権利を含む」と書かれていることは、自分の曲がこの先どう作り替えられ、どう使われても、原則として口を出せなくなることを意味します。

たとえば、30秒の CM 用に作った曲が、数年後に別の商品の CM でアレンジを変えて使われる、ゲーム内の BGM が続編で編曲されてサウンドトラックに収録される。27条・28条まで譲渡していれば、こうした展開に追加の許諾や対価を求める根拠は、契約で別に定めない限り残りません。

交渉で確認できること

受注側が確認・交渉できる余地は、主に次の三つです。

  1. 対価の水準 — 作り替えの権利まで含む譲渡なのに、利用許諾と同じ水準の金額になっていないか。見積もりの考え方はBGM制作の見積書の読み方で扱っています
  2. 譲渡の範囲 — 27条・28条のすべてではなく、「本件 CM の尺違いの版の制作に必要な範囲」のように用途を限った許諾で足りないか
  3. 人格権の扱い — 不行使特約の範囲と、クレジット表記の約束

JASRAC などの管理事業者に作品を信託している場合は、前の章で見たとおり、そもそも単独で譲渡を約束できないことがあります。約款と自分の契約の関係を確認せずに署名すると、発注者と管理事業者の双方に対して説明のつかない状態になりかねません。

自分の作品を示すときにも

ポートフォリオで過去作を紹介する際も、譲渡した曲の扱いは契約次第です。著作権を譲渡した曲を、制作実績として試聴できる形で公開してよいかどうかは、契約で「実績としての紹介」を認めてもらっておくのが確実です。制作実績を公開して仕事につなげる方法は音楽人材の方へで紹介しています。

特掲は「念のため」ではなく、用途と対価の確認である

第61条第2項は、一行で書ける規定です。しかしその一行が求めているのは、条文番号を書き写す作業ではありません。この曲をどこまで作り替え、作り替えたものをどう使う予定なのかを、発注する側と受ける側が契約の時点で言葉にすることです。

ここまでの内容を整理すると、次のようになります。

  • 「著作権を譲渡する」とだけ書いた契約では、第27条(編曲・翻案など)と第28条(二次的著作物の利用)の権利は作り手に残ると推定される
  • 「一切の権利」といった包括的な文言では特掲にならないおそれがある(大阪高裁2011年3月31日決定)
  • 推定は覆りうるが、覆す負担は権利が移ったと主張する側が負い、覆る範囲も契約で予定された用途に限られうる
  • 音楽業界の標準的な約款(JASRAC)も、第28条を名指しして移転の対象に含めている
  • 著作者人格権は譲渡できず、別途、不行使特約の要否と範囲を決める必要がある
  • 受注する側にとって特掲は「何を手放すか」の宣言であり、対価と範囲を確認する機会になる

編曲版やショート版をあとから作る予定があるなら、最初の契約でその予定を書き、27条・28条を名指しする。予定がないなら、譲渡ではなく用途を限った利用許諾で足りるかを検討する。どちらを選ぶにしても、根拠になるのは契約書に書かれた言葉です。

参考・出典