ゲームに音楽を付けたいと考えたとき、多くの人は「BGMを10曲お願いします」と頼むところから始めます。ところが、納品された音源をそのままゲームに入れてみると、曲の終わりで一瞬音が途切れる、戦闘に入った瞬間に音楽がぶつ切りになる、スマートフォンで鳴らすと他のタイトルより極端に小さい、といった問題が次々に見つかることがあります。

これは作り手の腕の問題とは限りません。ゲームの音楽は、再生される長さも順番も、プレイヤーの操作によって決まるからです。映像の音楽は「何分何秒の映像に合わせる」という前提で作れますが、ゲームでは同じ街に10秒しかいない人もいれば、1時間とどまる人もいます。曲を作るだけでなく、どう繰り返し、どう切り替え、どの形式でゲームに組み込むかまでを決めて初めて、音楽は完成します。

この記事では、ゲームBGMを外部に発注するときに決めておくべきことを順に説明します。料金の考え方は BGM制作の依頼料金は何で決まるのか で扱っているので、ここではゲーム固有の論点に絞ります。なお法律・制度に関する記述は執筆時点(2026年10月)の情報です。

ゲームの音楽は「終わりの時刻」が決まっていない

ゲームBGMの発注で最初に共有したいのは、その曲がゲームの中でどう鳴るのかという前提です。同じ「フィールドの曲」でも、次のどれに当たるかで作り方がまったく変わります。

  • ループする曲 — タイトル画面、街、フィールド、ダンジョンなど、プレイヤーが滞在する限り鳴り続ける
  • 一度だけ鳴る曲 — 勝利のファンファーレ、ゲームオーバー、レベルアップなど、数秒〜十数秒で終わる短い曲(ジングルと呼ばれます)
  • 映像に合わせる曲 — オープニングムービーやイベントシーンのように、尺が決まった映像に付ける曲。こちらは映像音楽の発注に近くなります
  • 状況に応じて変化する曲 — 敵が近づくと楽器が増える、体力が減ると緊張感のある展開に移る、といった仕組みを前提にした曲

ループする曲は、映像音楽の感覚で「起承転結のある3分の曲」として作ると、ループの継ぎ目で毎回「終わってまた始まる」感覚が生まれます。数十分にわたって同じ曲を聴き続けるプレイヤーにとって、この継ぎ目は思った以上に目立ちます。逆に、あまりに短いループは単調さが際立ち、耳が疲れる原因になります。

また、ゲーム音楽は効果音とセリフの下で鳴ることが多く、音楽が声と同じ帯域を埋めていると肝心の情報が聞き取りにくくなります。プレイ中の録画で「この場面では何が鳴っているか」を伝えると、作り手は空けるべき帯域を判断しやすくなります。曲ごとの一覧の書き方は後の章で表にまとめます。

ループの設計 — イントロ、ループ本体、継ぎ目

ループする曲は、多くの場合イントロ(最初の一回だけ鳴る部分)とループ本体(繰り返される部分)の二つで組み立てます。ゲームが始まるとイントロから再生され、ループ本体の終わりに達すると、イントロではなくループ本体の頭へ戻ります。こうすると、場面に入った瞬間の印象的な導入と、継ぎ目の目立たない繰り返しを両立できます。

ループポイントはサンプル単位で指定する

戻る位置(ループポイント)は、秒ではなくサンプル数(デジタル音声の1点1点の数)で指定するのが基本です。サンプリング周波数が48kHzなら1秒は48,000サンプルなので、6.5秒の位置は312,000サンプル目になります。秒の小数で指定すると丸め誤差で継ぎ目にわずかなずれが生じ、クリックノイズ(「プツッ」という音)や拍のよれとして聞こえることがあります。

ループポイントをファイルに書き込む方法はゲームエンジンやツールによって異なります。たとえば「RPGツクール」シリーズのMV版の公開されているコアスクリプトは、Ogg Vorbis形式やMP4形式の音声ファイルに埋め込まれた LOOPSTART と LOOPLENGTH というメタデータ(ファイルに付ける付加情報)をサンプル数として読み取り、サンプリング周波数で割って秒に換算しています。このような仕組みのあるエンジンでは、作り手がループポイントを書き込んだ状態で納品すれば、組み込む側の手間が減ります。

継ぎ目で起きやすい三つの問題

ループの継ぎ目では、次のような問題が起きやすくなります。

  1. 残響が切れる — ループ本体の最後の音にかかったリバーブ(残響)が、頭に戻った瞬間にぷつりと消える。本体の頭の部分に、最後の音の残響をあらかじめ重ねておく処理で対処するのが一般的です
  2. 音量や音色が段差になる — 最後の小節がフェードアウト気味で、頭の小節が大きいと、毎回音量が跳ね上がって聞こえる
  3. ファイル形式による無音 — 圧縮形式によっては、ファイルの頭と終わりに無音が足される

三つ目はMP3で特に知られた問題です。MP3のエンコーダ「LAME」の技術資料は、ISO規格に基づくエンコーダが528サンプルの遅延を生じること、1フレームが1,152サンプル単位で扱われるため最後のフレームが無音で埋められることを説明しています。この無音の量を情報タグとして埋め込む工夫はありますが、再生側が対応していなければ継ぎ目に隙間ができます。ループさせる曲をMP3で納品・実装するのは避けるのが無難で、発注書では最初から形式を指定しておくとよいでしょう。

紙のコラージュで描いた、巻き取られて輪になった五線譜のテープと、その継ぎ目を合わせようとするハサミと糊
ループする曲は、イントロのあとに続く本体の終わりと頭がぴたりと合うように作る。継ぎ目の位置はサンプル単位で指定する

場面で切り替わる音楽 — 水平と垂直の二つの考え方

ゲーム音楽の発注で、映像音楽と最も大きく違うのがここです。プレイヤーの状況に応じて音楽を変化させる手法は、ゲームオーディオの分野ではおおむね二つの考え方で整理されます。

水平方向の切り替え(区間の並べ替え)

一つの曲を複数の区間に分け、状況に応じて次に再生する区間を選ぶ方法です。英語では horizontal re-sequencing と呼ばれます。探索中は穏やかな区間を繰り返し、敵が現れたら緊張感のある区間へ、戦闘が終われば締めくくりの区間へ、というように時間軸の上で曲をつなぎ替えます。

区間を切り替えるタイミングは、拍や小節の頭にそろえるのが基本です(クオンタイズと呼びます)。そのため作り手には、テンポ・拍子・小節数を固定し、どの小節からでも次の区間へ移れるように作ることが求められます。切り替えの瞬間を自然に聞かせるために、スティンガー(切り替え時に一度だけ鳴らす短いフレーズ)や、区間同士をつなぐ短いブリッジを別に用意することもあります。

垂直方向の重ね合わせ(レイヤー)

同じ長さ・同じテンポの複数のパートを同時に再生し、状況に応じて各パートの音量を上げ下げする方法です。vertical layering や vertical remixing と呼ばれます。たとえば弦楽器・打楽器・金管楽器を別々のファイルとして納品し、探索中は弦だけ、敵に見つかると打楽器が加わり、ボスに近づくと金管が重なる、という具合です。

この方式では、各パートが単独で鳴っても、どの組み合わせで重なっても音楽として成立している必要があります。単に完成曲を楽器ごとに書き出したステム(パートごとの音声ファイル)では、特定のパートだけを鳴らしたときに成立しないことが多く、最初からレイヤー前提で作曲・編曲する必要があります。工数が増えるため、見積もりにも反映される部分です。

ミドルウェアの存在

こうした仕組みは、Audiokinetic の Wwise や Firelight Technologies の FMOD Studio のようなオーディオミドルウェア(ゲームエンジンとは別にゲームの音を制御するソフトウェア)を使って組むことが多くあります。Wwise では区間の入りと出の位置をエントリーキュー・イグジットキューとして設定し、FMOD Studio ではタイムライン上にループ領域や遷移のマーカーを置いて、どこで繰り返しどこへ移るかを指定します。Unreal Engine の MetaSounds のように、エンジン自体がサンプル精度で音を制御できる仕組みを持つ場合もあります。

切り替えの仕組みを使うかどうかで、作り手に求めるスキルと納品物が変わります。「ループするだけのBGM」で十分なタイトルも多く、規模に合わせて選べば問題ありません。

誰がゲームに組み込むのかを先に決める

ゲーム音楽の発注で見落とされやすいのが、実装(ゲームに音を組み込み、鳴るように設定する作業)を誰が担うかです。ここが曖昧なまま進むと、納品後に「ループが設定されていない」「切り替えのタイミングが想定と違う」といった問題が、誰の担当でもないまま残ります。

担い手の分け方は、おおむね次の三つです。

実装の担い手作り手の納品物向いている場面
発注側のプログラマーが組み込む音源ファイル+ループ位置や切り替えの仕様書小規模なタイトル・ループするだけのBGMが中心
発注側のサウンド担当がミドルウェアで組む音源ファイル・ステム・区間ごとの書き出し社内にサウンドの専任者がいる
作り手がミドルウェアのプロジェクトまで作るミドルウェアのプロジェクト一式+音源状況で変化する音楽を本格的に使う

三つ目の形では、作り手はゲームの開発環境やミドルウェアのプロジェクトにアクセスする必要があります。開発中のビルド(テスト用に組み上げたゲーム)を渡すことになるため、秘密保持の取り決めと、作業できる環境の準備が欠かせません。

実装を発注側で行う場合でも、作り手が実際のゲーム画面で確認できる機会を一度は設けると、仕上がりが大きく変わります。曲単体で聴いて問題がなくても、効果音や操作の音と重なったときに初めて分かることが多いからです。確認用のビルドを渡すか、プレイ中の画面を録画して共有するかを、スケジュールに組み込んでおきます。

また、ゲーム開発では仕様の変更が珍しくありません。曲の追加や差し替えをどう扱うか(何曲まで当初の金額に含むか、追加は1曲いくらか)を契約で決めておくと、双方の負担が読めるようになります。契約で決める項目全体は 音楽の業務委託契約で必ず決める9項目 を参照してください。

納品形式と音量の基準

原本は非圧縮で受け取り、圧縮は組み込む側で行う

納品形式で迷ったら、まず非圧縮のWAVで原本を受け取ることを基本にします。サンプリング周波数とビット深度(1サンプルあたりの情報量)は、映像と同じ48kHz・24bitを指定するケースが多く見られますが、エンジンや既存の素材に合わせて決めます。重要なのは、全曲で統一することです。

ゲームに組み込むときの圧縮は、エンジン側の設定で行えることがほとんどです。たとえば Unity の公式マニュアルは、音声クリップの読み込み方法として、読み込み時に展開する「Decompress On Load」、圧縮したままメモリに置いて再生時に展開する「Compressed In Memory」、少しずつ読み込みながら再生する「Streaming」の三つを挙げ、圧縮形式として PCM・ADPCM・Vorbis/MP3 を選べると説明しています。長いBGMはストリーミング再生、短い効果音は非圧縮、といった使い分けはエンジン側で判断することなので、作り手には原本を渡してもらい、圧縮の判断は組み込む側が持つほうが、後から設定を変えやすくなります。

ただし、前述のようにループポイントをファイルに埋め込む方式のエンジンでは、作り手が指定の形式で書き出すほうが確実な場合もあります。どちらに寄せるかは、実装の担い手と合わせて決めます。

ファイル名と書き出しの約束事

曲数が増えると、ファイル名の付け方が意外に大きな問題になります。「最終」「最終2」「修正版」のような名前が混在すると、どれが最新か分からなくなります。発注時に、たとえば次のような規則を決めておくとよいでしょう。

  • 曲番号・場面名・種別(ループ/ジングル/ステム)・版を並べる(例: bgm03_dungeon_loop_v2.wav)
  • ループする曲は、イントロとループ本体を一つのファイルにするか、別ファイルに分けるかを決める
  • ステムは全パートを曲の頭から同じ長さで書き出し、半角英数字のみのファイル名にする

音量(ラウドネス)の目安

ゲーム全体の音量の基準として参照されることが多いのが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)の社内横断グループ ASWG(Audio Standards Working Group)が2013年8月に公開した推奨値 ASWG-R001(v1.10)です。この文書は、据え置き機向けのタイトルでは平均ラウドネスを -24 LKFS(±2)、携帯機向けでは -18 LKFS(±2)に正規化し、トゥルーピーク(サンプルの間に生じる本当の最大値)は -1 dBTP を超えないことを推奨しています。測定には国際規格 ITU-R BS.1770 の方式を使い、音楽だけでなく効果音やセリフを含めた全体を、ゲームプレイの代表的な場面から最低30分測るよう求めています。

この数値はソニーのプラットフォーム向けの推奨であり、すべてのゲームに課される義務ではありません。また基準はゲーム全体の音に対するものなので、BGM単体をこの数値に合わせればよいわけではありません。発注時には「BGMはピークに余裕を残し、全体の調整は組み込む側で行う」といった役割分担を決めておくのが現実的です。ミックスやマスタリングの指示の出し方は ミックスとマスタリングを外注するとき何を渡し何を伝えるか でも扱っています。

ブラウザゲームの場合

ブラウザで動くゲームでは、ブラウザ側の規則も関わります。Google Chrome は2018年4月のバージョン66から自動再生の規則を導入し、音の出る自動再生は、利用者がそのサイトでクリックやタップをした後などに限って許可しています。Web Audio API についても、利用者の操作より前に作られた再生の仕組みは一時停止の状態で始まり、操作の後に再開する必要があると説明しています。タイトル画面の曲が最初の一音から鳴る前提で作ると、実際には冒頭が聞こえないことがあるため、ブラウザゲームでは「最初の操作のあとに鳴り始める」ことを作り手に伝えておくとよいでしょう。

紙のコラージュで描いた、ゲーム機のコントローラーと携帯型ゲーム機、パソコンのキーボードが並ぶ机を、斜め上から見下ろした静物
同じ曲でも、据え置き機・携帯機・ブラウザでは鳴る環境が違う。音量の基準と再生の約束事は、遊ばれる場所に合わせて決める

曲リストと進め方 — 発注書に書く項目

ここまでの内容を、発注時に渡す曲リスト(キューシート)にまとめると、作り手との認識合わせが一気に進みます。1曲ごとに次の項目を埋めた表を作るのがおすすめです。

項目書く内容の例
曲番号・仮タイトルBGM03 地下の遺跡
使う場面ダンジョン探索中。滞在は平均10〜20分
再生の仕方イントロ+ループ/一度だけ/映像に合わせる/状況で変化
長さの目安ループ本体1分30秒〜2分
一緒に鳴る音足音・環境音・敵の鳴き声。セリフはなし
雰囲気と参考曲静かな緊張感。参考曲のURLと「どこを参考にしたいか」
切り替えの有無敵に見つかると打楽器を追加(レイヤー2本)
納品物WAV 48kHz/24bit、ループ位置の情報、ステム一式

参考曲は、URLを並べるだけでなく「テンポ感」「楽器の数」「冒頭の雰囲気」など、何を参考にしたいのかを一言添えると誤解が減ります。

進め方は、全曲を一度に作るのではなく、まず1〜2曲で方向性を合わせるのが一般的です。メインテーマやもっとも長く鳴るフィールド曲を先に作り、実際のゲーム画面で確認してから残りに進むと、世界観のずれによる大きな作り直しを避けられます。修正の回数や、どの段階の修正までを当初の金額に含むかもこの時点で決めます。

権利と支払いの整理

ゲームの音楽は、発売後にサウンドトラックとして販売・配信されたり、続編やリメイクで編曲されたりすることがあります。こうした展開を見込むなら、著作権の譲渡に加えて、編曲などの権利(著作権法第27条)と二次的著作物の利用に関する権利(第28条)を契約に明記しておく必要があります。詳しくは 「著作権を譲渡する」だけでは足りない — 27条・28条の特掲 と 買い取りか印税か で解説しています。

ゲーム実況の配信を許可するタイトルでは、BGMの権利の置き場所がそのまま配信の可否に関わります。作り手が音楽著作権の管理団体に作品を預けている場合の扱いも含め、発売前に権利の整理を終えておくことが大切です。また、個人のフリーランスに発注する場合は、2024年11月に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、取引条件の明示などが求められます。実務の要点は フリーランス法と音楽の発注 にまとめています。

ゲーム音楽は「曲」ではなく「鳴らし方」まで含めて発注する

押さえておきたいのは、曲ごとの再生の仕方、ループの継ぎ目、切り替えの仕組みの有無、実装の担い手、納品形式と音量の役割分担、そして権利と支払いの六つです。

ゲームの音楽は、プレイヤーが操作するたびに形を変える、映像音楽とは別の仕事です。その分、作り手にはゲームの仕組みへの理解と、ループや切り替えを前提にした作曲の技術が求められます。発注する側が「どう鳴らしたいか」を具体的に伝えられれば、その技術を持つ人を探すことも、見積もりを比べることもずっと容易になります。

ゲーム音楽を手がける作曲家やサウンドクリエイターは、ポートフォリオ一覧 から作品を聴いて探せます。曲リストがまとまっていれば、仕事の掲載 で条件を示して募集することもできます。はじめて音楽を外部に依頼する場合は、企業の方へのご案内 で依頼の流れを確認してください。

参考・出典