夏祭りの櫓(やぐら)の上で鳴る太鼓、能舞台で「カン」と乾いた音を刻む太鼓、獅子舞に付いて歩く細長い太鼓。どれも「和太鼓」と呼ばれますが、形も音もまるで違います。デジタル大辞泉は和太鼓を「日本で伝統的に使われる太鼓の総称」と定義しており、特定の一つの楽器を指す言葉ではありません。
違いを生んでいるのは、大きく三つの要素です。革をどう留めるか(鋲で打ち付けるか、紐で締めるか)、胴をどう作るか(一本の木をくりぬくか、板を桶のように組むか)、そして胴の長さです。この三つの組み合わせで、低く長く響く音から、高く短く切れる音までが作り分けられてきました。
この記事では、辞典類の記述をもとに主な和太鼓の構造と用途を整理し、日本音響学会の英文誌に発表された研究から「二枚の革と胴の中の空気」が音をどう決めるかをたどります。最後に、複数の太鼓を組み合わせる「組太鼓」がどのように生まれたかを見ていきます。
「たいこ」と「つづみ」 — 革の留め方で分ける
コトバンクに収録された世界大百科事典によれば、日本では古く膜鳴楽器(まくめいがっき、張った膜を振動させて音を出す楽器)全般を「つづみ」と呼んでいました。中国文化との交流を経て「大鼓(たいこ)」の呼び名が定着し、胴のくびれたものを「つづみ」、それ以外を「たいこ」と区別するようになったとされます。
実物の記録として初出とされるのは、宝亀11年(780年)の『西大寺資財流記帳』にある「大皷一面」です。さらにさかのぼると、群馬県佐波郡から出土した「太鼓を打つ人」の埴輪があり、古墳時代にすでに膜鳴楽器があったと考えられています。
和太鼓の分類にはいくつかの軸があります。百科事典マイペディアは、革の張り方で締太鼓(しめだいこ)と鋲打太鼓(びょううちだいこ)の二つに大別します。鋲打太鼓は胴の両端に革を当て、縁を鋲で胴に打ち付けて固定したものです。締太鼓は両面の革を紐やボルトで引き合わせて張るもので、あとから張りの強さを変えられます。
もう一つの軸が胴の長さで、世界大百科事典は長胴(ながどう)と短胴(平胴、ひらどう)に分けています。このほか、枠に一枚だけ革を張った団扇(うちわ)太鼓のような片面の太鼓もありますが、マイペディアは一枚革のものは「ごくわずか」としています。
| 分類の軸 | 主な種類 | 音への影響 |
|---|---|---|
| 革の留め方 | 鋲打太鼓/締太鼓 | 鋲打は張りが固定、締は演奏前に調整できる |
| 胴の作り | くりぬき(刳り胴)/板を組む桶胴 | 胴の重さと剛性が響きの長さに関わる |
| 胴の長さ | 長胴/短胴(平胴) | 胴の中の空気の量が低音に関わる |
用途で見ると、雅楽では大太鼓(だだいこ)・楽太鼓(がくだいこ)・羯鼓(かっこ)など、能では枠付きの短胴の締太鼓、歌舞伎の囃子では大太鼓・桶胴・団扇太鼓などが使われます。民俗芸能では各地の祭礼太鼓に加え、沖縄のパーランクーのような片面の小太鼓もあります。
長胴太鼓 — くりぬいた胴に鋲で留めた牛革
祭りや和太鼓グループの舞台で最もよく目にするのが、長胴太鼓(ながどうだいこ)です。胴の中央がやや膨らんだ樽型で、両面に牛の革を張り、縁をぐるりと鋲で留めてあります。マイペディアによれば、民俗芸能・神事・相撲などで使われる鋲打太鼓は、用途によって宮太鼓・祭太鼓・櫓太鼓とも呼ばれます。
胴は一本の丸太をくりぬいて作るのが伝統的な製法です。コトバンクの「事典 日本の地域ブランド・名産品」は、滋賀県彦根の太鼓は欅(けやき)の胴に雌牛の革をなめして張り、熊本県宇城の太鼓は欅などを長期間乾燥させて胴材にすると紹介しています。三重県いなべ市・桑名市の和太鼓は、かつて北勢地方に集まった良質の欅が製作の基盤でしたが、現在は大木が少なく他地方から原木を取り寄せているといいます。
鋲で留めた革は、張ったあとに強さを変えられません。そのため長胴太鼓では、革を張る段階で職人が目標の張りまで引き伸ばします。Hideo Suzuki らが2009年に日本音響学会の英文誌 Acoustical Science and Technology に発表した論文も、長胴太鼓の特徴として、牛革を主な材料とする膜がほかの太鼓より高い張力で張られている点を挙げています。
歌舞伎の舞台裏でも、鋲打ちの大太鼓は欠かせません。ブリタニカ国際大百科事典は、歌舞伎の下座(舞台下手の黒御簾の中で演奏する囃子)で使う大太鼓を直径約90cm、長さ約105cmとし、規格は特にないと記しています。精選版日本国語大辞典によれば、この大太鼓は雨・風・雪・波の音や怪異な場面、役者のせり上げなどに「陰の鳴物」として使われます。同じ一台の太鼓で、桴(ばち)の選び方と打ち方を変えて天候まで描き分けるわけです。

締太鼓 — 紐とボルトで張りを上げる高い音
締太鼓は、張りの強さを演奏の前に調整できる太鼓です。マイペディアと日本大百科全書によれば、欅や松などで作った円筒の胴の両端に革を当て、両面の革の縁に通した紐(調緒、しらべお)で引き合わせて締めます。締め方は、まず「縦調べ」で締め、さらに「上調べ」で強く締め上げるという二段階です。
能や長唄で使われる型は、牛革を鉄の輪に張って胴に当てる「枠付き」で、マイペディアは皮面の直径を約35cm、胴の長さを約15cmとしています。胴が短く、革を強く張るので、音は高く、短く切れます。長胴太鼓が「響き」を聞かせる楽器だとすれば、締太鼓は「刻み」を受け持つ楽器です。
能の太鼓は台に載せ、手前が低くなるように傾けて置き、ヒノキの2本の桴で打ちます。マイペディアによれば、打ち方は大ノ桴・中ノ桴・小ノ桴・刻ム桴の4種類が基本で、流派によって持ち方や記譜法が異なります。
一方、日本大百科全書によれば、民俗芸能の締太鼓には、紐の代わりに鉄のボルトで締めるものもあります。祭囃子・獅子舞・神楽などで使われる締太鼓は、能の締太鼓のように枠を使う型だけでなく、革を胴に直接当てる桶胴型もあり、形はさまざまです。
張りを変えられるということは、音の高さを曲や合わせる相手に応じて選べるということです。弦楽器の調弦ほど厳密な音程を求めるものではありませんが、ほかの太鼓との音の重なりを考えて締め具合を変える点では、箏の調弦や三味線の構造と音で見た「張力で音を決める」考え方と通じています。
桶胴・楽太鼓・鼉太鼓 — 胴の作りと大きさで広がる音
桶胴太鼓 — 板を組んだ軽い胴
桶胴(おけどう)太鼓は、名前のとおり桶のように板をつなぎ、箍(たが)をはめた円筒の胴を持つ太鼓です。ブリタニカ国際大百科事典によれば、枠を使わずに革を胴に直接張り、革の周囲の穴に紐を交互に通して、たすき状に締めます。デジタル大辞泉は馬革を張ったものとして、全長約35cm、直径約20cmとしています。
板を組んだ胴はくりぬきの胴より軽く、肩から下げて歩きながら打てます。デジタル大辞泉は、その音を「鈍くひなびた音」と表現し、太神楽や角兵衛獅子などの民俗芸能、歌舞伎の下座で田舎の場面などに使うと書いています。くりぬいた厚い胴に比べて胴そのものの剛性と重さが小さいことが、響きの違いに関わっていると考えられます。
楽太鼓と鼉太鼓 — 雅楽の吊り太鼓
雅楽で使う楽太鼓(釣太鼓)は、精選版日本国語大辞典によれば吊り枠に下げた扁平な太鼓で、2本の桴で打ちます。歌舞伎ではこの音色をまねた扁平な太鼓を使い、俗に「平丸太鼓」と呼びます。
その最大のものが、舞楽で使う大太鼓(だだいこ)です。鼉太鼓(だだいこ)とも書き、周囲を火焔の飾りで囲むことから火焔太鼓とも呼ばれます。ブリタニカは鼓面の直径を約190cmとし、日本大百科全書は左方を金色の日形と昇竜、右方を銀色の月形と鳳凰で飾ると記しています。日本大百科全書によれば、奈良・春日大社と大阪・四天王寺のものが重要文化財に指定されています。
観光庁の多言語解説文データベースによれば、春日大社の鼉太鼓は高さ約6.5mで、牛革の鼓面を調緒で留めています。初代は鎌倉時代に源頼朝が寄進したと伝えられ、長年の使用で交換が必要になったため、1976年に複製が作られました。現在も毎年の春日若宮おん祭で、屋外の舞楽の伴奏に使われています。鼉太鼓は鋲ではなく調緒で革を締める点で、構造としては締太鼓の仲間です。
二枚の革と胴の空気 — 和太鼓の音はどこで生まれるか
太鼓の音の主役は革の振動です。ただし、弦と膜では振動の性質が大きく違います。弦は基本の振動数の2倍・3倍……と整数倍の倍音が並ぶので、はっきりした音の高さが聞こえます。理想的な円形の膜を計算すると、低いほうから2番目以降の振動の型(モード)は基本の約1.59倍・2.14倍・2.30倍……と整数倍から外れた位置に並びます。太鼓の音が「ドン」という高さのはっきりしない音に聞こえるのは、このためです。
二枚の革は胴の中の空気でつながっている
和太鼓の多くは胴の両端に革を張っています。Suzuki と Yun-Fan Hwang が2008年に同誌に発表した論文「Coupling between two membranes of a Japanese drum」は、この二枚の革が胴の中の空気を介して互いに影響し合うことを解析しました。
論文によれば、二枚の革がまったく同じ振動数に張られていても、結合によって共振は二つに分かれます。二枚が同じ向きに動く(同位相の)振動では、中の空気がまとめて押し動かされるため、革が一枚のときより振動数が下がります。逆向きに動く(逆位相の)振動では、中の空気がばねのように働いて振動数が上がります。
論文はさらに、和太鼓では二枚の革をわずかにずらして張るのが一般的だとして、そのずれが共振とモードの形に与える影響を、直径48cm・長さ50cmの太鼓を想定して数値計算しています。表と裏の張りの差は、職人が意図して作る音の要素の一つだということです。

牛革の硬さと胴の木
革そのものの硬さも音に関わります。Suzuki らの2009年の論文は、化学処理した牛革のヤング率(材料の伸びにくさを表す値)を約3.5×10⁹Paとし、長胴太鼓の革は単なる膜ではなく、曲げにくさを持った「張った板」として扱うべきだと論じました。
ところが、直径48cmの長胴太鼓を実測すると、低いほうの数個のモードでは、革の硬さが共振の間隔に与える影響はほとんど見られず、理論の予測と食い違いました。論文は、中高音域での硬さの効果を確かめるにはより精密な実験が必要だと結論しています。
胴も振動します。Hwang と Suzuki が2016年に同誌に発表した論文は、和太鼓の木の胴を有限要素法(構造を細かな要素に分けて振動を計算する手法)で解析しました。木は繊維の方向によって硬さが違う材料で、測れたのは繊維方向のヤング率と比重だけでした。実測した低次7モードの共振に合うよう未知の定数を推定したところ、繊維に直交する方向の硬さが低次モードの共振を決めるうえで重要だと分かりました。くりぬきの胴か板を組んだ胴かで響きが変わる理由を考える手がかりになる結果です。
組太鼓 — 一台の伴奏楽器から太鼓だけの合奏へ
ここまで見た太鼓は、もともと神事・祭礼・雅楽・能・歌舞伎の中で、踊りや笛、謡の伴奏を担う楽器でした。現在よく見る「大小の太鼓を並べ、太鼓だけで一曲を演奏する」形は、20世紀後半に広まったものです。
その起点の一つとされるのが、長野県岡谷市出身の小口大八(おぐち だいはち、1924〜2008年)です。日外アソシエーツの『新撰 芸能人物事典 明治〜平成』によれば、小口は1950年に諏訪大社の神楽太鼓の古い譜面をもとに「御諏訪太鼓(おすわだいこ)」を復元し、その後も作曲を重ねて「太鼓オーケストラ」を完成させました。同事典は小口を「複式複打法組太鼓の創始者」と紹介しています。復元の年は1951年とする資料もあります。
日本財団図書館に収録された御諏訪太鼓の紹介は、この合奏が長胴太鼓を中心に笛やほら貝、ほかの打楽器を組み合わせた「小さなオーケストラ」のような編成だと説明しています。1998年の長野冬季オリンピックでは、善光寺へ続く約800mの道で2,000人が演奏し、閉会式では御諏訪太鼓の奏者400人が演奏したと記録されています。
組太鼓は全国に広がりました。公益財団法人日本太鼓財団によれば、1979年に「全日本太鼓連盟」が結成され、1997年11月11日に法人化して財団法人日本太鼓連盟に、2012年4月1日に現在の公益財団法人へ移行しています。佐渡を拠点とする太鼓芸能集団・鼓童は、公式サイトで1981年にベルリン芸術祭でデビューし、50以上の国と地域で7,500回を超える公演を行ってきたとしています。
組太鼓では、ここまで見てきた太鼓の性格の違いを、合奏の中の役割として使い分けられます。低く長く響く長胴太鼓と、高く短く切れる締太鼓では、同じリズムを打っても受け持つ音域と響きの長さが異なるからです。張り方と胴の作りの違いが、合奏の中の「声部」として生かされているともいえます。

和太鼓を録音する・依頼するとき
和太鼓は音量の幅が大きく、胴の空気がつくる低音が長く残るため、録音ではマイクの選び方と置き方、部屋の響きの影響を強く受けます。基本はマイクの種類と選び方や部屋の音響の記事で整理しています。どの種類の太鼓を何台使うか、締太鼓をどこまで張るかによっても必要な準備が変わるので、演奏者と事前に編成を確認しておくと進行がずれにくくなります。
和太鼓の奏者はミュージシャンを探すから職種で探せます。イベントや映像の仕事として条件を示して募集する場合は仕事を探すに業務委託の案件を掲載できます。音楽業界の外から初めて演奏や録音を頼む場合の流れは企業の方へにまとめています。
胴・革・締め方の組み合わせが音色を決める
和太鼓の種類の多さは、革の留め方・胴の作り・胴の長さという少ない要素の組み合わせから生まれています。鋲で強く張った長胴太鼓は低く長い響きを、紐やボルトで張りを上げた締太鼓は高く切れのよい音を、板を組んだ軽い桶胴太鼓はひなびた音と身軽さをもたらします。
音響学の研究は、その違いの背後にある仕組みを少しずつ明らかにしてきました。二枚の革は胴の空気でつながって共振を二つに分け、表と裏の張りの差がその分かれ方を変えます。革の硬さや胴の木の性質がどこまで音に効くのかは、測定と計算の食い違いも含めて、まだ研究が続いている領域です。
祭りや舞台で太鼓を見かけたら、革の縁に鋲が並んでいるか、紐が渡っているか、胴が一本の木か板の組み合わせかに目を向けてみてください。形の違いを知ると、同じ「ドン」という音の中に、楽器ごとの性格が聞き分けられるようになるはずです。
参考・出典
- 太鼓(デジタル大辞泉・世界大百科事典・百科事典マイペディア・事典 日本の地域ブランド・名産品ほか)(コトバンク)
- 締太鼓(百科事典マイペディア・日本大百科全書・ブリタニカ国際大百科事典ほか)(コトバンク)
- 大太鼓(日本大百科全書・ブリタニカ国際大百科事典・精選版日本国語大辞典ほか)(コトバンク)
- 桶胴(デジタル大辞泉・世界大百科事典・ブリタニカ国際大百科事典ほか)(コトバンク)
- 楽太鼓(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉ほか)(コトバンク)
- 和太鼓(デジタル大辞泉・事典 日本の地域ブランド・名産品)(コトバンク)
- 小口大八(新撰 芸能人物事典 明治〜平成)(コトバンク・日外アソシエーツ・2010年)
- 春日大社 鼉太鼓(観光庁 地域観光資源の多言語解説文データベース)
- Coupling between two membranes of a Japanese drum(Hideo Suzuki・Yun-Fan Hwang/Acoustical Science and Technology 29巻3号・2008年)
- Theoretical and experimental studies on the resonance frequencies of a stretched circular plate: Application to Japanese drum diaphragms(Hideo Suzuki・Naoki Yamaguchi・Hideaki Izumi/Acoustical Science and Technology 30巻5号・2009年)
- A finite-element analysis on the free vibration of Japanese drum wood barrels under material property uncertainty(Yun-Fan Hwang・Hideo Suzuki/Acoustical Science and Technology 37巻3号・2016年)
- 日本太鼓財団について(公益財団法人日本太鼓財団)
- 御諏訪太鼓(日本財団図書館)
- 鼓童について(鼓童)