コンサートホールの舞台を客席から眺めると、指揮者の左手側にヴァイオリンがずらりと並び、右手側にチェロ、その奥にコントラバス、中央の段の上に木管楽器、さらに奥に金管楽器と打楽器が見えます。多くの人にとって、これが「オーケストラの形」でしょう。

ところが、同じ交響曲の演奏会でも、ヴァイオリンが指揮者の左右に分かれて向かい合っていることがあります。第1ヴァイオリンが左、第2ヴァイオリンが右という並べ方で、日本では対向配置(両翼配置とも呼ばれます)と呼ばれます。どちらかが正しく、どちらかが間違っているわけではありません。配置は作曲家の書き方、ホールの響き、指揮者の考えによって選ばれてきた「設計」なのです。

この記事では、配置の基本ルールを確認したうえで、18世紀の配置指示から20世紀の並べ替え、音響学の測定、ホールの形の変化までを資料からたどります。

舞台の基本形 — 音量の小さい楽器を前に置く

まず、いまの配置の大原則から見ていきます。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は公式サイトのコラムで、配置を決めるのは指揮者であり、判断の材料は曲目、ホールの音響、セクション同士の溶け合い、奏者から指揮者が見えるかどうかだと説明しています。そのうえで基本は「音量順」で、音の小さい弦楽器を前に、木管楽器をその後ろに、音の大きい金管楽器をさらに後ろに、打楽器を最も奥に置くとしています。

ヴァイオリン1挺の音量はトランペット1本に及ばず、金管楽器を前に置けば弦の音は覆い隠されます。音量の小さい楽器ほど客席に近づけて、全体のバランスを整えるわけです。

一方、弦楽器の並べ方には大きく2つの流儀があります。同じコラムでは、指揮者から見て左から第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロと並べる形を「アメリカ式」、ヴィオラとチェロを入れ替えた形をその変形、第1と第2ヴァイオリンを向かい合わせ、間にチェロとヴィオラを置く形を「ドイツ式」と呼び、ベルリン・フィル自身は変形と「ドイツ式」を曲によって使い分けていると紹介しています。

呼び名指揮者から見た弦楽器の並び(左→右)特徴
アメリカ式(ストコフスキー型)第1Vn・第2Vn・Va・Vc高い音から低い音へ順に並ぶ。ヴァイオリン同士が聴き合いやすい
アメリカ式の変形第1Vn・第2Vn・Vc・Vaチェロが客席側の正面寄りに出る。ドイツ語圏の楽団でも多い
対向配置(ドイツ式・両翼配置)第1Vn・Vc(またはVa)・Va(またはVc)・第2Vn2つのヴァイオリンが左右から掛け合う。コントラバスは左奥に置くことが多い

表の「Vn」はヴァイオリン、「Va」はヴィオラ、「Vc」はチェロの略です。

鍵盤楽器を囲んでいた18世紀 — クヴァンツの配置指示

指揮者が指揮棒で全体をまとめる形が定着する前、18世紀のオーケストラの中心にいたのは鍵盤楽器でした。チェンバロ(ハープシコード)の奏者が和音で全体を支え、隣に座る首席のヴァイオリン奏者が弓や体の動きで合図を出していました。

当時の配置を最も具体的に書き残した資料の一つが、ヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ(Johann Joachim Quantz・1697〜1773年)の『フルート奏法試論』(1752年・ベルリン)です。クヴァンツはプロイセン王フリードリヒ2世のフルート教師を務めた人物で、この本はフルートの教則本であると同時に、当時の演奏習慣を伝える資料として現在も参照されています。

同書の第17章第1節は「合奏の指導者」の心得を扱い、その第13〜15項で場面ごとの配置を指示しています。歌劇場のオーケストラ席では、第1のチェンバロを中央に置いて歌手の方を向かせ、その右にチェロ、左にコントラバスを置く。指導者(コンサートマスターに相当)はチェンバロの右隣に、少し前に出て高い位置に座る。ヴァイオリンとヴィオラは、全員が指導者を見て聴けるよう、指導者を囲む細い弧を描いて並ぶ。オーボエとホルンは左側に置く――という具合です。

舞台のない大広間で演奏する場合については、チェンバロの尖った側を聴衆に向け、第1ヴァイオリンをチェンバロの横に一列に並べ、その後ろに第2ヴァイオリン、さらに後ろにヴィオラを置くとしています。フルートは音が弱いので奥からでは届かないとして、前方のチェンバロのそばに置くよう求めています。音量の小さい楽器を前に出すという現代の原則が、すでにここに表れています。

第16項では人数の釣り合いも示しており、ヴァイオリン4人にはヴィオラ1、チェロ1、コントラバス1を組み合わせるのが基本単位で、ヴァイオリン12人ならヴィオラ3、チェロ4、コントラバス2に管楽器を加える、としています。

同じ時代のジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)の『音楽辞典』(1768年・パリ)には、ヨハン・アドルフ・ハッセ(Johann Adolf Hasse)が率いたドレスデンの宮廷歌劇場のオーケストラの配置図が収められ、1775年の英訳版にも掲載されています。辞典の図版に載るほど、配置は合奏の質を左右する問題として意識されていました。

18世紀の歌劇場のオーケストラ席を真横から見た図。中央にチェンバロが置かれ、その周りに譜面台と椅子が弧を描いて並び、燭台の灯りが譜面台を照らしている。人はいない
18世紀の歌劇場のオーケストラ席のイメージ。クヴァンツの指示では、チェンバロを中央に置き、弦楽器が指導者を囲む弧を描いて並んだ

左右で掛け合うヴァイオリン — 19世紀の対向配置

18世紀後半から19世紀にかけて、オーケストラは人数を増やし、鍵盤楽器は姿を消し、指揮者が独立した役割として前に立つようになります。この時期の弦楽器の並びとして広く行われていたのが、第1と第2ヴァイオリンを指揮者の左右に分ける配置でした。

アメリカのジャクソンビル交響楽団の音楽監督を務めたコートニー・ルイス(Courtney Lewis)は、2017年に同楽団のサイトに掲載した解説で、18〜19世紀を通じて第1と第2ヴァイオリンはほぼ常に左右に分かれていたと述べています。その例として、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、ベルリン・フィル、ニューヨーク・フィル、マンチェスターのハレ管弦楽団、そしてフィラデルフィア管弦楽団も、かつては左右に分けていたと挙げています。

左右に分ける利点として語られるのは、アンティフォン(antiphony。2つの群が交互に応答し合う書き方)の効果です。2つのヴァイオリンが旋律を受け渡すと、音が客席の左から右へ、右から左へと移り、立体的に聴こえます。現代のステレオ録音の左右の広がりを、舞台の上で実際の配置として作っていたと言えます。

楽譜に書き込まれた「左右」

左右の配置を前提にしたと考えられる書き方は、19世紀の楽譜に数多く見られます。よく知られているのが、ピョートル・チャイコフスキー(Pyotr Tchaikovsky)の交響曲第6番『悲愴』(1893年)の終楽章の冒頭です。聴こえてくるのは下降する一本の旋律ですが、楽譜では第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが1音ずつ交互に受け持っており、どちらのパートだけを見ても旋律になりません。左右に分かれて座ると、一本の旋律が左右の間で揺れるように聴こえます。

ただし、作曲家がどの配置を想定していたかは、楽譜から推測するしかない場合がほとんどです。同じ書き方でも、隣り合って座れば「2つのパートが一本に溶け合う効果」として聴こえます。どちらが作曲家の意図により近いかについては、指揮者や研究者の間で解釈が分かれています。

「ストコフスキー・シフト」 — ヴァイオリンを一か所に集めた20世紀

左右に分かれていたヴァイオリンを一か所にまとめる配置を広めた人物として、必ず名前が挙がるのがレオポルド・ストコフスキー(Leopold Stokowski・1882〜1977年)です。ペンシルベニア大学が所蔵するストコフスキー文書の目録は、彼が1912年から1936年までフィラデルフィア管弦楽団の指揮者を務め、その間に団員の座席配置を試行錯誤したことを記しています。

前出のルイスの解説によれば、ストコフスキーは木管・金管楽器を弦楽器の前に出す配置まで試したことがあり、これは観客や理事会の反発を招きました。最終的に定着したのは、1920年代に導入した、弦楽器を指揮者の左から高い音の順に並べる配置です。ヴァイオリンを一か所にまとめると奏者どうしが互いの音を聴きやすくなる、というのが彼の説明だったとされます。この並べ替えは「ストコフスキー・シフト」と呼ばれ、アメリカの楽団に広まりました。イギリスでもヘンリー・ウッド(Henry Wood)が同じ形を好んだと、ルイスは書いています。

一方、ルイスはドイツとオーストリアではこの変更が受け入れられず、その後、ヴァイオリンをまとめつつヴィオラを右端に置く折衷型が広がったとしています。冒頭の表で「アメリカ式の変形」とした形です。

ヴァイオリンをまとめる利点としては、隣の音が直接聴こえて合わせやすいこと、後の章で見るように第2ヴァイオリンの表板も客席を向くことが挙げられます。作品の変化も関係しています。ルイスはドミートリイ・ショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovich)の交響曲第5番のようにヴァイオリンを3つ以上のパートに細かく分ける作品では、第1と第2が隣り合っている方が合理的だと指摘しています。配置の変化は、指揮者の好みだけでなく、書かれる音楽の変化とも連動していたと考えられます。

音はどの方向に出るのか — 指向性から見た配置

配置の議論に科学的な根拠を与えたのが、楽器の指向性(音がどの方向にどれだけ強く放射されるか)の研究です。この分野を代表するのが、ドイツの物理工学研究所に勤めた音響学者ユルゲン・マイヤー(Jürgen Meyer)で、無響室(壁の反射をほぼなくした実験室)で楽器ごとの放射を測定し、その成果を『音響と音楽演奏』(Acoustics and the Performance of Music)にまとめました。2009年の英語版第5版には「コンサートホールでの座席配置」という章が設けられています。

マイヤーが1972年にアメリカ音響学会誌に発表した弦楽器の指向性に関する論文の要旨によれば、コントラバスを除く弦楽器は、それぞれの最も低い音域ではほぼ全方向に均等に音を出します。ところが周波数が高くなると、音が強く出る方向と角度の幅が周波数ごとに変わっていきます。ヴァイオリンの場合、音色の「輝き」を担う高い倍音は、表板(弦が張られた面)の側に強く放射される傾向があります。

ここから配置の違いが説明できます。ヴァイオリンは奏者の左肩に構えるため、表板はおおむね奏者の右前方を向きます。指揮者の左側に座る第1ヴァイオリンは、表板が客席の方を向きます。ところが対向配置で右側に座る第2ヴァイオリンは、表板が舞台の奥の方を向いてしまいます。

マイヤーは同じ論文で、ドイツ式(対向配置)はチェロの放射に最も適しており、第1と第2ヴァイオリンの音色を聴き分けやすい利点がある一方、第2ヴァイオリンの音に輝きが欠けると述べています。そして、最適な弦楽器の配置はホールごと、曲の様式ごとに異なると結論づけています。どちらかの配置が常に優れているわけではない、という結論です。

後ろ向きに吹くホルン

指向性の影響が最も大きいのは、ベル(朝顔)が奏者の後ろを向いているホルンです。ヤマハの楽器解説は、もともと肩に担いで吹いていたためにベルが後ろを向いたとされること、室内では後ろの壁に反射した音が聴衆に届くので壁の材質が音色に影響することを説明しています。オーケストラの配置でホルンを反射板や壁の手前に置くのは、この反射を利用するためです。ホルンが舞台の左右どちらに座るかが配置ごとに変わるのも、ベルの向きと反射面の位置をどう合わせるかと関係しています。

木の舞台の上の椅子に置かれたホルンを斜め後ろから見た図。ベルが背後の木製の反射板の方を向き、隣の椅子には譜面台が立っている。人はいない
ホルンのベルは奏者の後ろを向く。オーケストラでは背後の壁や反射板で跳ね返った音が客席に届くため、ホルンの座る位置は反射面との関係で決まる

ホールの形が配置を変える — 覆われたピットと囲み型ホール

配置を左右するもう一つの要素が、演奏する空間そのものです。19世紀後半と20世紀後半に、オーケストラの置き場所を根本から変えた建物が2つ登場します。

一つは、リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner)が自作の上演のために建てたバイロイト祝祭劇場です。1876年に開場し、同年に祝祭のためのオーケストラが初めて編成されたと、バイロイト音楽祭の公式サイトは記しています。この劇場のオーケストラ・ピット(舞台前の演奏者席)は舞台の下へ深く潜り込み、客席側に覆いがかけられて聴衆から見えません。ワーグナーはこの空間を「神秘の深淵」と呼んだとされます。直接音が客席に届きにくいぶん歌手の声が埋もれにくい一方、奏者からは歌手が見えにくく、指揮者を頼りに合わせることになります。

もう一つは、1963年に開場したベルリンのフィルハーモニーです。建築家ハンス・シャロウン(Hans Scharoun)は、オーケストラと聴衆が向かい合う従来の「シューボックス型」(細長い直方体の箱形)ホールから離れ、舞台をほぼ中央に置いて、段々畑のような客席がそれを囲む形を採りました。ベルリン・フィルの公式サイトは、人は自然発生的に音楽が始まると本能的にその周りに輪を作る、というシャロウンの言葉を紹介しています。こうした形はヴィンヤード型(ぶどう畑型)と呼ばれ、その後、世界各地のホールに広がりました。

客席が後ろにもあるとき

囲み型のホールでは、オーケストラの背後や真横にも聴衆がいます。前の章で見たように楽器の音には向きがあるので、正面の客席で整えたバランスが、背後の席では同じにはなりません。マイヤーが配置の最適解はホールごとに違うとしたのは、こうした事情も含んでいます。

前述のコラムでベルリン・フィルが、ホールの音響を配置を決める材料の一つに挙げているのも同じ理由です。同じ楽団が同じ曲を演奏しても、本拠地と旅先のホールで配置を変えることは珍しくありません。音響の基本的な考え方は、本サイトの部屋の響きを整える — 残響時間・定在波・吸音と拡散の基本でも整理しています。

段々畑のように何段にも分かれた客席がぐるりと囲むコンサートホールを高い位置から見下ろした図。中央の舞台に椅子と譜面台が並び、客席は空いている
囲み型(ヴィンヤード型)のホールの模式図。舞台を客席が取り囲むため、楽器の音の向きと聴く位置の関係が正面型のホールより複雑になる

配置を決めるのは誰か — 対向配置の復活と現場の判断

20世紀半ばにはアメリカ式とその変形が主流になりましたが、20世紀後半から、作曲当時の楽器や奏法を研究して演奏に生かす歴史的演奏実践(HIP: historically informed performance)の広がりとともに、古典派やロマン派の作品で対向配置を採る指揮者が増えたと言われます。前出のルイスも、ジャクソンビル交響楽団で古典派の作品を演奏する際には対向配置を採ると書いています。

ただし、どの楽団がいつどちらを採っているかは、指揮者や曲目によって変わります。ベルリン・フィルが2つの配置を曲ごとに使い分けているように、一つの楽団の中でも配置は固定されていません。同じコラムによれば、ベルリン・フィルでは前列を除く弦楽器奏者の席も固定されておらず、定期的に入れ替わります。団員の一人は、これが互いをよく知り、室内楽のように聴き合う力を磨くことにつながると話しています。

小さな編成ほど配置の影響は大きい

配置の判断は交響楽団だけの話ではありません。室内楽、イベントでの小編成アンサンブル、録音スタジオの弦楽セッションでも、誰がどこでどちらを向くかで聴こえ方は変わり、人数が少ないほど1人分の音の向きの影響は大きくなります。演奏者や編曲者のポートフォリオはミュージシャンを探すで、編成や会場を決めて依頼したい場合は仕事を探す・掲載するで探せます。音楽の仕事を外部に頼む際の流れは企業の方へにまとめています。

まとめ — 配置は伝統ではなく「選択」の積み重ね

オーケストラの配置は、何百年も前から決まっていた形のように見えます。しかし資料をたどると、1752年のクヴァンツはチェンバロを中心に弦楽器が弧を描く配置を書き、19世紀には第1と第2ヴァイオリンが左右に分かれ、1920年代のフィラデルフィアでヴァイオリンが一か所にまとめられ、その形がアメリカとイギリスに広まりました。いま「普通」とされる並びは、およそ100年の歴史しかないことになります。

その一方で、変わらない原則もあります。音量の小さい楽器を前に、大きい楽器を後ろに置くこと。奏者が指揮者やリーダーを見て聴ける位置に座ること。そして、楽器ごとに音の出る方向が違うことを踏まえ、ホールに合わせて並べ方を調整することです。

演奏会では、ヴァイオリンが左右どちらに座っているかに目を向けると、その日の指揮者が何を優先したのかが少し見えてきます。

参考・出典