音楽を配信に出す準備をしていると、どこかで必ず「-14 LUFS」という数字に出会います。マスタリングの相談でも、動画の音声の納品でも、「配信なら -14 に合わせておけば大丈夫」という言い方が半ば常識のように使われています。

けれども、この数字は法律で決まったものでも、国際規格で一律に定められたものでもありません。テレビ放送の音量基準は日本で -24 LKFS、欧州で -23 LUFS です。同じ「音の大きさ」を測る物差しを使いながら、配信と放送では9〜10の開きがあります。

この差はどこから生まれたのか。-14 という値は誰が、何を根拠に選んだのか。そして、制作や発注の現場はこの数字とどう付き合えばよいのか。測定の仕組みから順にたどっていきます。

「-14 LUFS」は誰が決めた数字なのか

最初に、数字の出どころを確認しておきます。-14 LUFS を公式に掲げている代表例は Spotify です。同社のアーティスト向けヘルプは、再生時にすべての曲を -14 dB LUFS に揃えること、その測定に ITU(国際電気通信連合)の BS.1770 という規格を使うことを明記しています。

もう一つの出どころは研究です。オランダのユトレヒト芸術大学(HKU)で教えるエーコ・グリム(Eelco Grimm)氏は、2017年に配信サービス TIDAL と共同で、同社が持つ約420万枚のアルバムの音量を分析しました。その結果から「携帯端末向けには、アルバムで最も大きい曲を -14 LUFS に揃える方式がよい」と提案し、TIDAL はこれを採用しています。研究は2019年10月の AES(Audio Engineering Society、音響技術者の国際学会)ニューヨーク大会で論文として発表されました。

さらに AES 自身も、2021年に技術文書 TD1008「Recommendations for Loudness of Internet Audio Streaming and On-Demand Distribution」を公表し、音楽の配信について -14 という値を示しています。ただしこの文書の -14 は、後で詳しく見るように「アルバムの中で最も大きい曲」に対する値です。

つまり -14 LUFS は、一つの権威が定めた規則ではなく、配信事業者の運用値と、研究と、業界団体の推奨が同じ付近に収束した数字です。そして重要なのは、どれも「配信サービスが再生するときに音量をどこへ揃えるか」の話であって、「制作者がマスターをいくつで作るべきか」を直接決めたものではないという点です。この区別は、最後の節で実務の判断につながります。

LUFS は何を測っているのか — BS.1770 の仕組み

LUFS(Loudness Units relative to Full Scale)は、デジタル信号の最大値(フルスケール)を基準にした聴感上の音量の単位です。米国や日本の放送規格では同じ尺度を LKFS と表記しますが、中身は同じで、どちらも1単位は1dB に相当します。差を表すときは LU(Loudness Unit)を使います。

測り方を決めているのが、ITU の勧告 BS.1770「Algorithms to measure audio programme loudness and true-peak audio level」です。初版は2006年7月に承認され、執筆時点の最新版は2023年11月承認の BS.1770-5 です。

計算の流れは大きく三段階に分かれます。まず、K特性フィルタ(人の頭部による音の変化を模したフィルタと、低域を弱めるフィルタの組み合わせ)をかけます。人の耳は低い音に鈍く、2〜4kHz 付近に敏感なので、その傾向を近似するためです。次に、各チャンネルの信号を二乗平均してパワーを求め、サラウンドの後方チャンネルには約1.5dB の重みを加えて合算します。

三段階目がゲーティング(一定の条件に満たない区間を計算から除くこと)です。信号を400ミリ秒のブロックに区切り、隣り合うブロックを75%ずつ重ねながら計算し、-70 LKFS 以下の無音に近いブロックを除外します。そのうえで、残りの平均より10dB 低いブロックも除いてから最終的な値を出します。この相対ゲートは、2010年10月に EBU(欧州放送連合)が提案し、2011年3月の BS.1770-2 で加わりました。無音や弱音の区間が長い番組で、測定値と体感がずれる問題を解消するためです。

こうして得た曲全体の値をインテグレーテッド・ラウドネス(統合ラウドネス)と呼びます。配信サービスが「-14 LUFS に揃える」というとき、対象はこの値です。

BS.1770 はもう一つ、トゥルーピークの測り方も定めています。デジタル音声のサンプル値が最大値を超えていなくても、アナログに戻すとサンプルとサンプルの間で波形が最大値を超えることがあります。これをオーバーサンプリングで推定した値がトゥルーピークで、単位は dBTP です。配信の推奨値に必ず「-1 dBTP」のような上限が添えられているのは、圧縮音声に変換するときにこの見えないピークが歪みの原因になるためです。

放送が先に決めた -24 と -23 — テレビの音量問題から生まれた規格

ラウドネスで音量をそろえる仕組みは、配信より先にテレビ放送で整いました。きっかけは、デジタル化によって番組やCMごとの音量差が目立つようになったことです。

日本の地上アナログ放送では、映像への影響を避けるため、送出の段階にコンプレッサーやリミッターを入れて音声を抑えるのが通例でした。その結果、素材ごとの音量のばらつきも、結果として抑えられていました。ところがデジタル放送では、広いダイナミックレンジ(強弱の幅)を生かすため、こうした機器を通さずに送出するのが一般的になり、素材の音量差がそのまま家庭に届くようになりました。

日本民間放送連盟(民放連)は2009年7月に「テレビ音声レベルWG」を設け、在京・在名・在阪の地上波局と WOWOW の技術者19名で検討を始めました。課題の一つは局の間の差です。民放局と NHK では音声の基準レベルが2dB 異なり(民放 -20dBFS、NHK -18dBFS)、同じ素材を流しても NHK のほうが大きく聞こえていました。従来の VU メーター(針で電圧を示す計器)による管理では解決できないと判断し、BS.1770 に基づくラウドネスメーターでの規定に方向転換しています。

その結果、電波産業会(ARIB)が2011年3月に技術資料 TR-B32「デジタルテレビ放送番組におけるラウドネス運用規定」を策定し、民放連は同年5月に技術規準 T032 を定めて2012年10月1日から運用を始めました。番組の目標値は -24.0 LKFS、運用上の許容範囲は ±1dB で、-28.0 LKFS を下回る番組は納品時に理由を書き添えることになっています。この -24 という値は、ITU が2010年3月に勧告した番組の国際交換の基準(BS.1864)と同じです。

海外でも同じ時期に規格が整いました。米国では ATSC(米国の次世代テレビ方式委員会)の推奨規範 A/85 が -24 LKFS を、欧州では EBU が2010年に公表した R 128 が -23 LUFS を目標値としています。R 128 は改訂を重ね、執筆時点の最新は2023年11月の第5.0版です。

夕暮れの丘の上に立つ放送の送信塔と、その手前に広がる瓦屋根の町。家々の屋根のテレビアンテナが一斉に塔の方角を向いている
テレビ放送のラウドネス基準は、デジタル化で番組やCMの音量差が目立つようになったことをきっかけに整えられた。日本では2012年10月から -24 LKFS での運用が始まっている

なぜ配信は放送より10LUも大きいのか — 小さな端末とイヤホン

では、放送が -24 や -23 で運用されているのに、なぜ配信の音楽は -14 なのでしょうか。理由として挙げられているのは、再生する機器の違いです。

テレビは据え置きのスピーカーで聞く前提で、アンプにも余裕があります。一方、配信の音楽はスマートフォンにイヤホンをつないで、電車の中や街なかで聞かれることが多いメディアです。端末の出力やアンプの増幅には限りがあり、周囲の騒音もあります。放送と同じ -23 前後で配信すると、音量を最大にしても物足りない場面が出てきます。

携帯端末の出力には、聴覚を守る観点からの制約もあります。たとえば欧州委員会は2009年6月の決定(2009/490/EC)で、携帯音楽プレーヤーの安全要件として、80dB(A) では週40時間、89dB(A) では週5時間に聴取時間を抑えることを欧州規格に求めました。端末側の上限を引き上げて解決するという道は取りにくいのです。

AES の TD1008 も、推奨値はスマートスピーカー、カーオーディオ、イヤホンをつないだスマートフォンといった機器の増幅と音響出力の限界を考慮したものだと説明しています。同時に、より大きな配信音量は周囲の騒音や出力不足を補う方法として適切ではない、とも述べています。上げすぎれば、静かな作品を引き上げるときにピークを潰す処理が必要になるからです。

グリム氏の分析は、この綱引きを数字で示しました。約420万枚のアルバムを調べると、年代が下るにつれてアルバム内で最も大きい曲の音量が上がっていく、いわゆるラウドネス戦争の跡がはっきり見られました。そのうえで、携帯端末向けにはアルバムの最も大きい曲を -14 LUFS に、据え置きの再生環境向けには -18 LUFS かそれ以下に揃えることを提案しています。

-14 は、小さな端末でも十分な音量が得られ、かつ多くの市販音源を下げる方向の調整だけで扱える値と理解するのが実態に近いでしょう。TD1008 の説明資料も、既存の市販音楽の大半は追加の処理なしにこの推奨に合わせられる、と述べています。

アルバム単位か曲単位か — -14 と -16 は同じことを言っている

ここで、TD1008 の推奨値を整理しておきます。この文書は、配信される音声の種類ごとに目標値(Distribution Loudness)を分けています。

対象目標値測り方
音楽(アルバム正規化)アルバムで最も大きい曲を -14 LUFS統合ラウドネス
音楽(曲ごとの正規化)各曲を -16 LUFS統合ラウドネス
話と音楽が混ざる番組(ポッドキャスト等)-18 LUFS話声のラウドネス、または統合ラウドネス
合間の広告・告知-18 LUFS統合ラウドネス

アルバム正規化とは、アルバムのすべての曲に同じ量だけ音量を上げ下げする方式です。最も大きい曲が -14 LUFS になるよう全体を動かすので、静かなバラードは静かなまま、曲間の強弱の関係が保たれます。曲ごとの正規化は、すべての曲を個別に同じ値へ揃える方式です。手軽ですが、アルバムの中で意図して小さく作った曲まで持ち上がってしまいます。

TD1008 の説明資料によれば、アルバム正規化で最も大きい曲を -14 に揃えた場合、アルバム全体の平均はおおむね -16 LUFS になります。曲ごとの正規化の目標値を -16 としているのはこのためで、二つの数字は同じ聴感の水準を、別の方式で表したものです。同文書はアルバム正規化を推奨する方式としており、グリム氏の試験でも、被験者38人のうち80%がアルバム正規化を好んだと報告されています。

音楽が話声の -18 より2LU 高く設定されている点にも理由があります。同じ統合ラウドネスに揃えると、話声のほうが音楽より2〜3dB 大きく感じられることが聴取試験で分かっているためです。ポッドキャストと音楽が交互に流れても違和感が出ないよう、音楽側を少し高くしています。

木の棚に並ぶレコードとCDのケース。一枚のアルバムのジャケットと歌詞カードが扇のように広げられ、その横に小さな携帯音楽プレーヤーが置かれている
アルバム正規化は、収録曲すべてを同じ量だけ上げ下げする方式。静かな曲は静かなまま残るので、アルバムとしての強弱の設計が保たれる

サービスごとの扱いは同じではない

-14 という数字が広まった一方で、配信サービスの実際の扱いは一様ではありません。執筆時点(2026年10月)に各社の公式ヘルプで確認できる内容を並べると、次のようになります。

サービス公式に確認できる内容
Spotify標準で -14 LUFS。プレミアム会員は Loud(-11)・Normal(-14)・Quiet(-19)を選べる。ウェブプレーヤーと他社製の機器では音量の正規化を行わない
YouTubeモバイルアプリの「安定した音量」が標準で有効。ただし音楽はこの機能の対象外。目標値は公式ヘルプに示されていない
Apple Music「サウンドチェック」で曲間の音量を揃えられる。目標値は公式ヘルプに示されていない
Amazon MusicAndroid・iOS・Fire OS のアプリに音量の正規化の設定がある。目標値は公式ヘルプに示されていない

Spotify の説明は特に具体的です。-14 より大きいマスターは再生時に下げられ、小さいマスターは上げられます。ただし上げる場合は、圧縮音声のためにピークに1dB の余裕を残す範囲にとどめます。Loud モードでは -11 まで持ち上げるため、-1dB で働くリミッター(立ち上がり5ミリ秒、戻り100ミリ秒)をかけています。また、アルバムを通して聞くときはアルバム全体に同じ補正をかけ、シャッフルや複数のアルバムをまたぐプレイリストでは曲ごとに補正すると説明しています。

TIDAL は、グリム氏の提案どおりアルバム正規化を導入しています。Apple・Amazon・YouTube の目標値は第三者の計測値が出回っていますが、本記事では公式の情報に限って扱います。

表から分かるのは、「配信はすべて -14」という言い方は正確ではないということです。目標値が違うサービスもあれば、利用者が正規化を切っている場合もあり、ウェブや外部機器では正規化が働かない経路もあります。マスターは、こうした複数の再生環境のどれでも破綻しないように作る必要があります。

マスターを -14 に合わせるべきか — 制作と発注の判断

ここまでの話を、制作と発注の判断に置き換えてみます。まず確認したいのは、-14 LUFS ちょうどでマスターを作る必要はないということです。Spotify も、推奨として -14 dB integrated LUFS 前後とトゥルーピーク -1dB 以下(-14 より大きいマスターでは -2dB 以下)を示していますが、これは「下げられたときに損をしない」「圧縮で歪まない」ための目安です。

-14 より大きく作ったマスターは、正規化が有効な環境では下げて再生されます。音圧を上げるために潰したダイナミクスは戻らないので、同じ音量で比べたとき、強弱の幅が残っているマスターのほうが生き生きと聞こえることがあります。逆に -14 より小さく作ったマスターは、ピークに余裕がなければ持ち上げてもらえず、他の曲より小さく再生されます。クラシックや映画音楽のように強弱の幅そのものが表現である作品では、それを承知で小さく作る判断もあり得ます。

正規化のない再生環境やDJの現場で並べて使われるジャンルでは、-14 より大きく仕上げることもあります。どの値が正しいかは作品と用途によって変わり、エンジニアの間でも考え方は分かれています。

発注する側にとって大事なのは、数字そのものより主な出口を伝えることです。「Spotify での配信が中心」「店内BGMとして有線とスマートフォンの両方で流す」「動画の背景音として YouTube に載せる」といった用途を伝えれば、エンジニアは目標値とピークの余裕を判断できます。ミックスとマスタリングの分担や依頼の手順は ミックスとマスタリングの依頼の順番 で、ラウドネスを含む波形解析の全体像は 波形を読む技術 で整理しています。

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数字の意味を知れば、数字に振り回されない

-14 LUFS は、テレビ放送の -24 や -23 と同じ BS.1770 という物差しの上に置かれた一つの目盛りです。放送が据え置きの機器と番組間の音量差の問題から -24 を選んだように、配信は小さな端末とイヤホンという再生環境から、より高い -14 付近を選びました。そしてその値は、アルバムの強弱を保つ方式と組み合わせて初めて意味を持ちます。

規格の目的はどれも、聞き手が曲ごとに音量を上げ下げしなくて済むようにし、作り手の意図した強弱をできるだけ残すことです。数字はそのための手段であり、合わせること自体が目的ではありません。

本記事の数値は、執筆時点(2026年10月)に各規格団体と配信サービスが公開している情報に基づきます。配信サービスの仕様は予告なく変わることがあるため、実際に納品する前には各社の最新の案内を確認してください。

参考・出典