楽器店でアコースティックギターの説明を読むと、「トップ(表板)はスプルース単板、サイドとバック(側板と裏板)はローズウッド」といった木材の名前が必ず並んでいます。エレキギターでも「ボディはアルダー」「指板はエボニー」と書かれ、木の種類が音色の特徴として語られます。演奏者のあいだでは、こうした楽器用の木材をトーンウッド(tonewood)と呼びます。

けれども、「この木だからこの音」という説明は、どこまで確かめられているのでしょうか。木材は同じ樹種でも1本ごとに性質が違い、ギターの音は弦、表板の厚み、補強材の配置、演奏者の手といった多くの要素の組み合わせで決まります。

この記事では、木という材料の性質を米国農務省(USDA)林産物研究所の数値で確かめ、「木材だけを変えたギター」の実験、エレキギターでの木材の効き方、希少材をめぐる国際的な規制までをたどります。

表板・裏板・ネック — ギターの部位ごとに木の役割は違う

アコースティックギターの胴は、薄い板で囲まれた箱です。弦の振動はブリッジ(弦を留める台座)を通じて表板に伝わり、表板が大きな面で空気を揺らすことで音になります。弦そのものは細く、空気をほとんど動かせないため、音量と音色の大部分は表板の振る舞いにかかっています。表板の裏側にはブレイシング(力木)と呼ばれる細い角材が接着され、弦の張力に耐えながら振動しやすさを残すように表板を支えています。

裏板と側板は箱の残りの面で、胴の中の空気と表板の振動を受け止める壁の役割を持ちます。ここにはローズウッド、マホガニー、メイプルなど、表板より重く硬い広葉樹が多く使われてきました。

ネックは弦の張力を受け止める長い梁で、反りやねじれに強いことが第一に求められます。その上に貼る指板には、フレットを支え、指の摩耗に耐える硬い材として、エボニー(黒檀)やローズウッドが伝統的に使われてきました。

部位主な役割伝統的によく使われる材の例
表板弦の振動を受けて空気を揺らすスプルース(トウヒ属)、シダー(米スギ)
力木表板を補強し、振動のしかたを整えるスプルース
裏板・側板箱の壁として空気と振動を受け止めるローズウッド、マホガニー、メイプル
ネック弦の張力を受け止めるマホガニー、メイプル
指板フレットを支え、指の摩耗に耐えるエボニー、ローズウッド

ギターの木材は音色のためだけでなく、強さ、反りにくさ、加工のしやすさ、手に入りやすさでも選ばれてきました。

木は方向で別の材料になる — 異方性と柾目

木材を考えるうえで最初に押さえたいのは、異方性(方向によって性質が変わること)です。木は細長い細胞が幹の方向にそろった材料なので、幹に沿った繊維方向、年輪を横切る放射方向、年輪に沿った接線方向で、硬さがまるで違います。

USDA林産物研究所が編集する技術書『Wood Handbook』(2021年版)の表5-1は、この違いを比で示しています。シトカスプルース(北米太平洋岸産のトウヒ)では、放射方向の弾性係数(たわみにくさを表す数値)は繊維方向の0.078倍、接線方向は0.043倍です。言い換えると、繊維方向は放射方向の約13倍、接線方向の約23倍たわみにくいことになります。

この性質は、板の取り方に直結します。丸太を年輪に対して直角に近い角度で割ると、板の表面に年輪が平行な縞として現れる柾目(まさめ)になります。年輪に沿って切ると、表面に山形の模様が出る板目(いため)になります。柾目の板は、幅方向が放射方向にそろうため、幅方向の硬さと寸法の安定が板目より読みやすくなります。ギターの表板には一般に柾目の板が使われ、2枚の板を中央で継ぎ合わせて木目を左右対称にそろえます。

丸太の断面を真上から見た設計図風の図解。同心円の年輪の上に、中心から放射状に割った柾目の板と、年輪に沿って平行に切った板目の板の切り出し線が重ねて描かれ、横には切り出した薄い板が並んでいる
丸太から板を取る2つの方法の模式図。年輪に直角に近い角度で割る柾目と、年輪に沿って切る板目では、板の幅方向の硬さと反り方が変わる

もう一つ大事なのが含水率(木に含まれる水分の割合)です。同じ表で、シトカスプルースの曲げの弾性係数は、伐採直後の生材で8,500MPa、含水率12%まで乾かした状態で10,800MPaと示されています。乾燥だけで3割近く硬くなる計算です。楽器用の木材を十分に乾かしてから加工するのは、この変化が落ち着く前に組み立てると、完成後に寸法や硬さが変わってしまうからです。

数字で比べる代表的な樹種 — 比重・弾性係数・放射の目安

それでは、樹種による違いはどのくらいあるのでしょうか。同じ『Wood Handbook』の表5-3aには、米国産の主要樹種について、含水率12%での比重(水に対する重さの比)と曲げの弾性係数がまとめられています。ここからギターに使われる代表的な樹種を抜き出し、編集部で二つの目安を計算しました。

一つは音速の目安で、繊維方向の音速は弾性係数を密度で割った値の平方根に比例します。もう一つは放射の目安で、「音速を密度で割った値」は放射減衰係数(放射率、radiation ratio)と呼ばれ、軽くて硬い板ほど振動を音に変えやすいことを示します。木材の音響特性を総説したウルリケ・ヴェグスト(Ulrike Wegst)の2006年の論文も、この値を楽器用材を比べる尺度の一つとして整理しています。

樹種(米国産・含水率12%)比重弾性係数(MPa)音速の目安(シトカ=100)放射の目安(シトカ=100)
シトカスプルース0.4010,800100100
エンゲルマンスプルース0.358,90097111
ウェスタンレッドシダー0.327,70094118
レッドアルダー0.419,5009390
ブラックウォルナット0.5511,6008864
ホワイトアッシュ0.6012,0008657
シュガーメイプル(ハードメイプル)0.6312,6008655

右2列は比重を密度の代わりに使った概算で、樹種どうしの比較に限って使える目安です(ハンドブックは、曲げ試験の弾性係数がせん断変形の影響で約10%低く出ると注記しています)。

表板に使われてきたスプルースやシダーは「軽いわりに硬い」側に、裏板やネックに使われてきたメイプル、ウォルナット、アッシュは「重くて硬い」側に並びます。表板には振動を音に変えやすい材、骨組みには変形しにくい材という使い分けと矛盾しません。

ただし、この二つの数値だけで楽器用材の良し悪しは決まりません。ヴェグストの総説は振動が熱に変わって消える速さ(内部減衰)も重要な指標に挙げていますが、ハンドブックの表には載っていません。また表の数値は多数の試験片の平均で、同じ樹種でも個体差は大きくあります。

ドレスデン工科大学のセバスティアン・メルヒェル(Sebastian Merchel)らは2019年、同じモデルのスチール弦ギターを9本作り、表板と力木の密度と弾性係数だけを、木材業者が実際に出荷している範囲で変えました。2本ずつの聞き比べでは、このモデルでは密度と弾性係数が低いギターのほうが好まれる傾向が出ています。樹種の名前より、1枚ずつの板の性質が音に効く場面があるという示唆です。

表板が主役とされる理由 — 紙の胴と、裏板だけを変えた6本

現代のクラシックギターの形を確立したとされるスペインの製作家アントニオ・デ・トーレス(Antonio de Torres Jurado)は、1862年に裏板と側板を張り子(紙を貼り重ねたもの)で作ったギターを製作したと伝えられ、この楽器はバルセロナ音楽博物館(Museu de la Música de Barcelona)に所蔵されています。紙の胴にした理由を記した当時の文書はなく、「表板の重要性を示すため」という説明は後世の解釈ですが、裏板の材質が音の中心ではない例としてたびたび引き合いに出されてきました。

この問いを実験で確かめたのが、英国の研究者サミュエル・カルカーニョ(Samuele Carcagno)、ジム・ウッドハウス(Jim Woodhouse)、クリストファー・プラック(Christopher Plack)らが2018年に米国音響学会誌(JASA)に発表した研究です。1人の製作家が、裏板と側板の木材だけをブラジリアンローズウッド、インディアンローズウッド、マホガニー、ウォルナット、メイプル、サペリと変えたスチール弦ギターを6本作り、ほかの材と組み立ての条件はそろえました。

工房の床に並べた6枚のギターの裏板を真上から見た設計図風の図。どれも同じ輪郭の胴の形で、木目の模様だけがそれぞれ異なり、脇には採寸用の定規とクランプが置かれている
裏板だけを変えた比較実験のイメージ。2018年の研究では、輪郭も表板もそろえた6本で、裏板と側板の樹種だけを変えた

演奏者は木材が見えないよう溶接用のマスクを着けて薄暗い部屋で演奏し、音を評価しました。6本の評価の差はごく小さく、盲検の条件では音や弾き心地でギターを区別することも難しいという結果でした。振動の測定でも、裏板の樹種が胴の振動特性に与える影響は小さいと報告されています。

著者らは論文の冒頭で、裏板と側板に珍重される木材の一部は高価で希少で、持続可能な形で調達されていないと指摘し、少なくともこの実験の条件では、より安価で持続可能な木材を代わりに使っても音の質は損なわれないと結論しています。ただし、これは1人の製作家による1つの設計での結果であり、すべてのギターに当てはまるとまでは言えません。

エレキギターの木材はどこに効くのか — 弦とネックの結合

ソリッドボディのエレキギターの音は、ピックアップ(弦の振動を磁気で電気信号に変える部品)が拾った弦の動きそのもので、木の胴が空気を揺らした音はほとんど使われません。

ソルボンヌ大学のアルチュール・パテ(Arthur Paté)、ジャン=ロイク・ル・カルー(Jean-Loïc Le Carrou)、ブノワ・ファーブル(Benoît Fabre)は2014年、マホガニーのボディとネック、ローズウッドの指板を持つギターで、弦の音の減衰を調べました。

弦の音が消えていく主な原因は二つでした。弦そのものの内部の減衰と、ネックとの機械的な結合で弦の振動エネルギーが構造へ流れ出ることです。ピックアップは弦の振動を余計に止めず、指板に垂直な方向の揺れに特に敏感であることも示されました。著者らは、弦単体の減衰と、音を出す位置でのネックの振動しやすさが分かれば、各音の減衰時間を予測できるとしています。

同じ論文が引くハインツ・フライシャー(Heinz Fleischer)らの研究は、特定の音だけが周囲よりずっと早く消えるデッドスポットを扱い、その音の位置と周波数でネックが振動しやすいことと結びつけています。

つまりエレキギターの木材は、「木が鳴る」ことではなく、ネックとボディがどれだけ振動を受け止めるかを通じて、音の伸び(サステイン)と音ごとのむらに効きます。その振る舞いは樹種だけでなく、ネックの形や接合方法、質量の配分でも変わります。また、パテらの測定では演奏の信号エネルギーの95%が2.5kHz以下に集まっていました。アンプやエフェクトが音を大きく作り変えることも考えると、木材の違いが最終的な音にどこまで残るかはさらに見えにくくなります。

希少材と規制 — ワシントン条約と米国のレイシー法

裏板や指板に使われてきたローズウッドやエボニーには熱帯の樹種が多く、国際的な取引規制の対象になってきました。以下は執筆時点(2026年10月)の情報です。

ブラジル原産のブラジリアンローズウッド(学名 Dalbergia nigra、日本の楽器業界ではハカランダとも呼ばれます)は、1992年にワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、CITES)の附属書Iに掲載されました。附属書Iは最も保護の度合いが高い区分で、商業目的の国際取引は原則として認められません。

その後、ツルサイカチ属(Dalbergia、いわゆるローズウッド類)全体が附属書IIに加わり、2017年1月2日からは木材だけでなく、ローズウッドを使った楽器の輸出入にも原則として許可書が必要になりました。

2019年8月にジュネーブで開かれた第18回締約国会議は、この属に付けられた注釈を改正し、完成した楽器とその部品・付属品を規制の対象から外すことを決めました。経済産業省の案内によれば、改正は2019年11月26日に発効しています。ただし附属書Iのブラジリアンローズウッドはこの除外の対象外で、材料としての木材や加工途中の部材も引き続き規制を受けます。経済産業省は、輸出の前に輸入国側の取り扱いを確認するよう求めています。

港の倉庫に積み上げられた木材の板の山を遠くから見た設計図風の図。束ねられた板の一つ一つに荷札が下がり、奥には大きな扉の向こうにクレーンと貨物船の輪郭が見える
国境を越える楽器用材の模式図。ローズウッド類は2017年から一時、完成した楽器にも許可書が必要になり、2019年11月に楽器は規制の対象から外れた

米国では、2008年に改正されたレイシー法(違法に伐採された木材やその製品の輸入・取引を禁じる法律)が、楽器メーカーにも直接かかわりました。米司法省は2012年8月、米大手ギターメーカーのギブソンがマダガスカル産エボニーとインド産ローズウッドの輸入をめぐる捜査について刑事執行合意を結び、30万ドルの制裁金と、保護樹種の保全のための5万ドルの拠出、法令順守の体制づくりに合意したと発表しました。司法省は、マダガスカルでは2006年からエボニーの伐採と未加工材の輸出が禁止されていたと説明しています。象牙やべっ甲といった三味線の材料をめぐる規制は三味線の構造と素材で扱っています。

木材は音を決めるのではなく、音の条件をつくる

「この木だからこの音」という単純な対応では、ギターの木材は語りきれません。木は方向によって硬さが10倍以上も違い、乾燥で3割近く硬さが変わり、同じ樹種でも1枚ずつ性質が異なる材料です。その材料を職人が厚みと補強の配置で整えたときに、楽器としての響きが生まれます。

裏板だけを変えた6本の実験では、目隠しをすると樹種の違いは聞き分けにくくなりました。一方、表板と力木の性質を変えた実験では好みに差が出ています。エレキギターでは、木材はネックの振動を通じて音の伸びに効いていました。木材は音色を一つに決めるものではなく、響きの条件をつくる要素の一つと考えるのが、現在の研究に近い見方です。

録音では、マイクの選び方(マイクの種類と選び方)や部屋の響き(部屋の響きを整える)も聴こえ方を左右します。ギターの演奏者や楽器の調整を担う技術者はミュージシャンを探すから職種で探せ、収録やイベントでの演奏は仕事を探すに業務委託の案件として掲載できます。業界の外から初めて依頼する流れは企業の方へにまとめています。

参考・出典