数語の指示を打ち込むだけで、完成度の高い楽曲が数十秒で出てくる。数年前には研究段階だったことが、いまでは誰でも試せるサービスになりました。

同時に、多くの人が立ち止まる問いがあります。その曲は誰のものなのか。 使っていいのか。学習に使われた楽曲の作り手はどうなるのか。

この問いが厄介なのは、「AIと著作権」というひとかたまりの問題に見えて、実際にはまったく性質の異なる複数の問題が混ざっているからです。整理の第一歩は、段階を分けることです。以下では日本の著作権法を軸に、制作者と発注者の双方が判断に使える形で論点を並べます。

なお、この記事は執筆時点(2026年8月)の情報に基づく一般的な解説であり、個別の案件についての法的助言ではありません。具体的な判断が必要な場合は、必ず専門家にご相談ください。

まず、三つの段階に分ける

AIと著作権をめぐる議論は、次の三つの段階に分けると格段に見通しが良くなります。

  1. 学習段階 — 既存の楽曲やデータをAIモデルの学習に使う行為
  2. 生成段階 — モデルに指示を与えて新しい音を出力させる行為
  3. 利用段階 — 出力されたものを公開・配信・販売する行為

日本の法制度は、この三つを別々の枠組みで扱います。学習段階には情報解析のための権利制限規定が関わり、生成・利用段階では通常の著作権侵害と同じ判断枠組み(後述する依拠性と類似性)が適用されます。

段階主に関わる論点判断の枠組み
学習既存楽曲の複製・解析著作権法第30条の4(情報解析等)と、その但し書き
生成出力が既存楽曲に似ているか依拠性と類似性(通常の侵害判断と同じ)
利用公開・配信・販売侵害判断に加え、契約・各サービスの規約・表示のルール

「AIの学習は法律で認められている」という説明と、「AIで作った曲が侵害になることがある」という説明は、一見矛盾して聞こえます。しかし前者は学習段階の話、後者は生成・利用段階の話であり、両立します。この区別を曖昧にしたまま議論すると、話が噛み合わなくなります。

三つの段階が層をなして重なる様子を表した抽象的なビジュアル
学習・生成・利用。同じ「AIと著作権」でも、どの段階の話かで適用される枠組みが変わる

学習はどこまで許されているのか

日本の著作権法には、第30条の4という規定があります。2018年の法改正で導入されたもので、著作物に表現された思想や感情を自ら享受し、または他人に享受させることを目的としない利用については、必要と認められる限度で、著作権者の許諾なく利用できるという内容です。情報解析のための利用は、この規定が想定する典型例とされています。

「享受」とは、著作物を鑑賞して知的・精神的な満足を得ることを指します。楽曲を聴いて楽しむのは享受ですが、大量の楽曲から統計的な特徴を抽出する処理は、その楽曲を味わうために行っているわけではない——こうした整理です。この規定は国際的に見ても広い部類とされ、日本が機械学習に取り組みやすい制度環境を持つと言われる根拠にもなっています。

ただし、条文には但し書きがあります。当該著作物の種類・用途および利用の態様に照らして、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は適用されません。たとえば、情報解析用に整備・販売されているデータベースを無断で複製して使うようなケースは、この但し書きに当たると説明されています。

この但し書きがどこまで及ぶかは、実務上の最大の論点の一つです。文化審議会著作権分科会の法制度小委員会は、「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)を取りまとめ、学習段階と生成・利用段階を区別したうえで、どのような場合に権利制限が及ばないと考えられるかを整理しました。特定の作家や作風を狙って学習させる場合の扱いなど、議論が続いている論点も含まれます。

文化庁はその後、立場ごとに要点をまとめた「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日)も公表しています。AIを業務で使う人にとっては、条文そのものより、この種の実務向け資料のほうが取っ付きやすいはずです。第30条の4を含む「柔軟な権利制限規定」については、2019年10月に公表された解説資料もあり、条文の趣旨をたどるうえで参考になります。

押さえておくべきなのは、「学習に使うこと」と「学習済みモデルの出力を使うこと」は別問題だという点です。学習が適法であっても、出力が既存の楽曲に似ていれば、それは生成・利用段階の問題として別途評価されます。

AIが作った曲に著作権はあるのか

次の問いは、出力されたものに著作権が発生するかどうかです。

日本の著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義しています。ここでの主体はです。したがって、AIが自動的に生成しただけのものは、原則として著作物には当たらないと考えられています。著作権が発生しないということは、他人が自由に使えてしまうということでもあります。

では、人が関与すればすべて著作物になるのかというと、そう単純ではありません。判断の鍵は創作的寄与があったかどうかです。考慮されるのは、指示(プロンプト)の具体性や分量、生成を繰り返して選択した過程、出力に対する修正や編集の度合いなど、総合的な要素とされています。

実務的な感覚として言えば、次のように整理できます。

関与のしかた著作物性の見込み
「明るいポップスを作って」程度の短い指示のみ認められにくい
詳細な指示を重ね、多数の生成から選別したケースにより判断が分かれる
生成物を素材として編集・演奏・再構成した人の創作部分に著作権が生じうる

つまり、AIを使って作った音楽の権利を主張したいなら、人が創作的に関与した記録を残しておくことが実務上の防御になります。どのような指示を出し、どこを選び、どう手を入れたか。制作の過程を残す習慣は、これまで以上に意味を持ちます。

なお、AI生成物に著作権が認められないとしても、それを商品として販売することが禁じられるわけではありません。「著作権が発生するか」と「取引できるか」は別の話です。契約でどこまで保証できるかが、代わりに重要になります。

似ているだけでは侵害にならない

「AIが作った曲が既存の曲に似ていたら侵害になるのか」という問いには、はっきりした答えがあります。著作権侵害が成立するには、類似性依拠性という二つの要件が必要です。

  • 類似性 — 既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感じ取れること
  • 依拠性 — 既存の著作物に依拠して(元にして)作られたこと

偶然に似てしまっただけであれば、依拠性がなく侵害にはなりません。これはAI以前から変わらない原則です。世の中には似たコード進行や似た旋律が無数に存在しますが、それだけで侵害になるわけではないのは、この要件があるからです。

AIの場合に難しいのは、依拠性の判断です。利用者が既存の楽曲を知らなくても、モデルがその楽曲を学習していた可能性がある。この点について、文化庁の整理では、AI利用者が既存著作物を認識していた場合のほか、学習データに当該著作物が含まれる場合には依拠性が認められうるという考え方が示されています。実際の判断は事案ごとになりますが、「知らなかった」で必ず免責されるとは限らないと理解しておくべきです。

もう一つ重要なのは、作風やジャンル、スタイルそのものは著作権で保護されないという原則です。著作権が守るのは具体的な表現であって、アイデアや手法ではありません。「あのアーティスト風の曲」を作ること自体は、直ちに著作権侵害にはなりません。ただし、特定の楽曲の旋律や特徴的なフレーズをなぞってしまえば、そこは表現の領域に入ります。

声とスタイル — 著作権の外側にある問題

ここ数年で最も摩擦が大きいのが、の問題です。特定の歌手の声質を再現した音源が、本人の関与なく作られ、公開される。これは多くの人が直感的に「まずい」と感じますが、著作権法だけでは捉えにくい領域です。

声そのものは著作物ではありません。歌唱という実演には著作隣接権がありますが、それは録音された実演を無断で複製・送信する行為などを対象とします。AIが学習して生成した「似た声」は、既存の録音の複製ではないため、著作隣接権では直接捉えにくいのです。

そこで議論されるのが、著作権以外の枠組みです。日本では、著名人の氏名や肖像が持つ顧客吸引力を保護するパブリシティ権が判例上認められており、声についても同様の保護が及ぶかが論点になります。ほかに、名誉毀損、不正競争防止法、契約上の義務など、複数の法律の組み合わせで考えることになります。海外では、実演家の声や姿の複製(デジタル・レプリカ)を正面から規律する立法の動きもあります。

制作の現場に引き寄せて言えば、「法的にグレーだからやる」という判断が最も危険です。声の再現は、権利以前に信頼の問題でもあります。本人の許諾がない声の再現は、たとえ違法と断定されなくても、公開した側の評判を確実に損ないます。

声の波形が別の輪郭へと写し取られていく様子を表した抽象的なビジュアル
声の再現は、著作権法だけでは捉えきれない領域にある

世界で起きていること

各国の制度と実務も、急速に動いています。ここでは方向性だけを押さえておきます。

米国では、著作権局(U.S. Copyright Office)が「Copyright and Artificial Intelligence」と題する報告書を段階的に公表してきました。Part 1 はデジタル・レプリカ(実在する人物の声や姿の複製)を扱い2024年7月に、Part 2 は著作物性を扱い2025年1月に、Part 3 は生成AIの学習を扱い2025年5月に事前公開版が公表されています。声や姿の複製を独立した主題として最初に取り上げた点は、この問題が実務上いかに切迫しているかを示しています。

著作物性については、人間の著作者性を要件とする立場が維持されています。生成AIによる出力そのものは登録の対象とならない一方、人間が創作的に選択・調整・配列した部分は保護されうる、という整理です。プロンプトだけでは十分な支配とはいえないという結論も示されており、これは日本の文化庁の整理と方向がよく似ています。制度の出発点が違っても、行き着く結論が近いのは興味深いところです。

なお、学習を扱う Part 3 は事前公開版のままで、本記事の執筆時点でも最終版は公表されていません(局は「分析と結論に実質的な変更は予定していない」としています)。

音楽に関わる人にとって見逃せないのは、この Part 3 が「市場の希釈」という考え方に踏み込んだ点です。フェアユースの判断では「元の著作物の市場に与える影響」が重視されますが、AI が同種の作品を大量に生成すれば、個々の楽曲を複製していなくても、同じ種類の音楽の市場そのものが薄まる——そうした損害まで視野に入れるべきだという議論です。報告書はレコード会社の意見書を引用する形で、安価なコンテンツの過剰供給がロイヤルティの分配を希釈するという主張を紹介しています。「似ていないなら問題ない」で済まない論点が、公的な文書に入り始めているわけです。

この議論には、実際の数字も出てきています。フランスの配信サービス Deezer は、2026年6月に、新しくアップロードされた楽曲の半分以上がAI生成と判定されたと公表しました。1日あたりおよそ9万曲という規模です。一方で、それらが実際に再生されているのは全ストリームの1〜3%にすぎません。さらに同社は、AI生成トラックのストリームのかなりの割合が不正な再生と判定されたとも述べています。つまり、いま起きているのは「AI音楽が聴かれている」というより、大量のAI楽曲がカタログを埋め、その一部が再生数の不正操作に使われているという状況です。ロイヤルティが分配の対象となる原資を分け合う仕組みである以上、これは既存の作り手の取り分に直接影響します。

学習データとしての利用がフェアユースに当たるかについては、訴訟が続いており決着したとは言えません。近年の判断のなかには、学習そのものは変容的な利用だと認めつつ、学習用データを違法に入手した行為は別問題として切り分けたものもあります。この切り分けは、日本の文化庁の整理が海賊版由来のデータの利用を戒めているのと、問題意識が重なります。

欧州連合では、AIに関する包括的な規則が段階的に適用されつつあり、汎用AIモデルの提供者に対して学習に用いたコンテンツの概要を公表する義務などが導入されています。さらに2026年8月からは、AIが生成した内容を機械可読な形で識別できるようにする義務の適用も始まりました。権利者と受け手が状況を把握できるようにするという、透明性からのアプローチです。日本の権利制限型の整理とは出発点が異なり、同じ論点でも国によって答えが違うことを示しています。

ただし、識別できるようにする義務は、識別情報が付いていないものを見分ける方法までは与えません。「AI生成かどうかを機械で判定できる」と考えすぎないほうが安全です。

産業側の動きは、単純な物語にはなっていません。2024年6月に大手レコード会社が音楽生成サービスを相手取って提訴して以降、和解してライセンス契約に切り替えた会社がある一方で、和解していない会社もあり、訴訟は係属したままです。争点も広がっており、学習の是非だけでなく、学習用のデータをどうやって入手したのかという手段の適法性まで持ち込まれています。

「対立から取引へ」という流れは、かつて音楽配信が登場したときにも起きたことです。ただし今回は、取引に応じた会社と、応じずに争い続ける会社が同時に存在している点が違います。決着の形は一つではない、と見ておくのが正確でしょう。

配信プラットフォーム側も対応を進めており、AI生成物の開示、なりすまし対策、大量投稿への規制といったルール整備が進みつつあります。ルールは頻繁に更新されるため、配信を伴う制作では、その時点の各サービスの規約を必ず確認する必要があります。

契約書と音の波形が重なり合う様子を表した抽象的なビジュアル
制度が固まるのを待つ必要はない。契約と記録で決めておけることは多い

現場でいますべきこと

法制度の細部が固まるのを待っていては、仕事は進みません。いま実務でできることは明確です。

制作する側が押さえるべき点。

  • 使用するAIサービスの利用規約を読む。生成物の権利がどう扱われ、商用利用が認められるか、学習データについて何を保証しているかは、サービスごとに異なる
  • 納品物にAIを使ったかどうか、どの工程でどう使ったかを記録する
  • 出力をそのまま納品せず、人の判断と手を入れた過程を残す(著作物性の確保と、品質の両面で意味がある)
  • 特定のアーティストや楽曲を指示に含めない。作風の指定と、特定楽曲の模倣は別物である
  • 声の再現は、本人の許諾がない限り行わない

発注する側が押さえるべき点。

  • 発注時にAI利用の可否と範囲を明示する。禁止するのか、工程を限定して認めるのか、開示を求めるのか
  • 納品物について、第三者の権利を侵害していないことの表明保証を契約に入れる
  • 独占的に使いたい場合、そもそも著作権が発生していない可能性を考慮する。AI生成部分が多い納品物では、他者が同じような音を使うことを止められない場合がある
  • 用途(放送・CM・ゲーム・店舗BGMなど)を最初に伝える。必要な権利処理の範囲が変わる

両者の合意事項は、次のように表にしておくと抜けが減ります。

決めておく項目具体例
AI利用の可否全工程で不可/アイデア出しのみ可/音源生成も可
開示の範囲どの工程で使ったかを納品時に書面で報告するか
権利の保証第三者の権利を侵害していないことの表明保証、違反時の対応
独占の可否独占的に使いたいか。AI生成部分について独占が成立しない可能性の確認
用途放送・CM・ゲーム・店舗BGM・SNS など。必要な処理の範囲が変わる

AIは、音楽制作の敷居を確実に下げました。その一方で、「誰が責任を持つのか」という問いはむしろ重くなっています。生成した人か、指示した人か、公開した人か。契約と記録で、この点をあらかじめ決めておくこと。それがいまの現場でできる最も確実な備えです。

制度はこれからも動きます。しかし、動く部分と動かない部分があります。「人の創作的寄与がなければ著作権は生じない」「類似性と依拠性の両方がなければ侵害にならない」「作風は保護されない」——こうした原則は、AI以前から続く枠組みです。新しい道具に振り回されず、既存の原則に照らして考えることが、結局のところ最も確実な判断方法になります。

音楽制作の発注で、権利処理まで含めて相談できる相手を探すなら、見つけるから職種で絞り込めます。依頼内容が固まっていれば、仕事の掲載から直接相談を投げることもできます。依頼の進め方は音楽の仕事を頼みたい方へにまとめています。

参考・出典

*本記事は2026年8月時点の公開情報に基づく一般的な解説であり、法的助言ではありません。制度と各サービスの規約は変更されます。個別の判断は専門家にご相談ください。*